第28話4

文字数 915文字

それでは。

二本目、はじめ!

 今度は簡単に距離を詰めてはこず、ジリジリと間合いを伺っているようだった。

 時間をかけるつもりはないので無造作に足を進める。

ちぃっ、間合いの取り方も知らんのか!

 深藍は一定の距離を保とうと円を描きながら移動をする。

 僕はその意図を斟酌せず、空間を削り取るように動く。

それならばっ

 逃げ回れないと判断をしたのか、逆に距離を詰めてきた。

 今度は両手を軽く握って顎の位置を守るような形でガードしている。

 打撃を警戒しているのだろう――と見せかけて右の出足払いの攻撃を、狙われた足をひょいと上げてかわす。

くそっ
 蹴りの勢いを殺さないまま回転して体勢を立て直そうとするところを追いかける。
ちぃ

 さらに回転しながら深藍は左手の裏拳。

 距離を見極め、鼻先スレスレで回避する。

 通り過ぎていく相手の左手を逃さずに捕えようとするが、深藍は素早く左肘を曲げて腕を取らせない。

 逆に捕えようとするこちらの手をめがけて手刀が放たれる。

 それを下がって空振りさせ、距離を取った。

ふぅ、ふぅ、ふぅ……

 相手の息が荒くなるのがわかる。

 僅かな時間の攻防だったが、どちらが優位なのかは明らかだ。

迷ったら……前へ出る!

 深藍は体を揺らしながら突進してくる。

 すっと上体を伸ばしたかと思うと、瞬時に膝を曲げてフェイントを入れてからの頭突き。

 相手の頭頂部に手を置きながら、進む先を誘導するようにいなす。

 離れていく深藍の足を引っ掛けるが、たたらを踏んでこらえた。あの右足でよく耐えた。


 相手の態勢が整うのを待ってから再び距離を詰める。

 徹底して近接戦闘を仕掛ける。

 それを嫌って深藍は距離を取ろうとするが、僕が前へ出る速度が常に上回るために後手に回らざるを得ない。


 苦し紛れに放つ攻撃はすべて余裕をもって回避する。

 その攻撃もすぐに手打ちになり、下半身がついてこなくなる。

 これでは当たってもダメージはほとんどない。


 そんな状態でもなお、深藍は攻撃の意思を失わなかった。

 フラフラになりながらも拳を放つ。蹴りを出す。

 だがそのすべてを僕はいなし続けた。


 やがて限界が来たのか深藍の機巧武者が両膝をつき、さらに両手をついて四つん這いになった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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