第16話3

文字数 860文字

結構、慌ただしいみたいだね

 途中、何度か甲冑を身に着けた人たちとすれ違った。

 遅ればせながら、敵に攻められた場所へ後詰めの兵を送り込んでいるのだろう。

 大規模な戦争を行おうとすれば事前の準備がいる。兵を揃えるだけではなく、武具や食料だって必要だ。

 そういうのはスパイを忍び込ませておけば事前に知れる。


 だがこの世界では機巧操士と機巧姫を敵国に潜り込ませることができれば大規模な陽動作戦どころかお城を攻め落とすことだってできてしまうだろう。

 そのあたりはどうなっているのか澪に聞いたら、何を言っているんだという顔をされた。

機巧姫って簡単に関所を超えられないんだからね。

そもそも手形がないと入れないし

そうだったね……

 ここで手形を見せてみろと言われなくてよかった。

 機巧姫の出入りが厳しく管理されているのは、江戸時代の入鉄炮出女みたいなものなのかもしれない。

 江戸へ持ち込まれる鉄砲と、江戸から出ていく女を厳しく取り締まったというあれだ。

機巧姫が人間のフリをしていたらどうするの?
普通は一目見ただけでわかるしね。

髪の色とか仕草とか話し方とか

 そう言って、澪は葵をちらりと見た。
人間とほとんど同じって言われている神代式の機巧姫ならわからないけど
機巧姫と人間ってそんなに違うものなの?
葵の君なんて例外中の例外だからね。

髪を染めてたら絶対にわからないとだろうし

 一番高いところに濠に囲まれた立派な武家館があった。

 操心館のように西洋風の趣はないが雰囲気のある建物だ。王が住むに相応しい風格がある。

 振り返って見下ろせば城下が目に入る。

 眼下に広がる街並みに思わずため息が出た。

 南へ向かって町が続いている。両サイドは色の濃い山がそびえ立っているから関谷の土地が狭いのがよくわかった。

 それでもここには多くの人たちが暮らしているのだ。

すごいでしょ? 

ここまで上がってくるのはちょっと大変だけど、この景色を見るといつもすごいなあって思うの

たしかに、この坂を毎日上がるのは大変だ
ね。おかげで足腰が鍛えられちゃうわ
 そう言って澪は笑った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色