第8話2

文字数 816文字

べ、別に怪我はしてないと思うけど……
じゃあ、痛むところはある? 

ここ? ここは?

 手当をしようという意志はこの上なく伝わってくるんだけど、外傷は特にないし痛みもないからそんな風にぺたぺた触らないで欲しい。

 なんていうか、女の子に体を触られるのは慣れてないのでっ。

本当に大丈夫。ちょっと疲れた感じがあって横になっていただけだから。

しばらくすれば起き上れると思うし

そうなんだ……よかったぁ

 女の子は心底ほっとしたように大きく息を吐いた。

 悪い子ではないのだろう。

 たったこれだけで判断を下すのは間違っているかもしれないが、少なくとも僕のことを心配してくれたのは事実だ。


 改めて女の子をよく見る。

 長く艶々した綺麗な髪はポニーテールにしている。彼女が首を振るたびにぷらんぷらんと左右に揺れた。

 女性のうなじっていうのは男の視線を引きつけてやまない。でも彼女については色気を感じるよりも愛らしい印象を受ける。

 しっかりした眉に意志の強さが宿っているようだ。目はパッチリしていて瞳は大きい。

 特別美人とは言わないけど、クラスにいたら男女を問わず人気者になっているような子だ。

あ、そうだ。

疲れているのなら〈手当(てあて)〉を使ってあげる

手当を使う?
うん。ある程度なら疲労の回復にも効果があるはずだから

 横になったままの僕の右肩に両手を当てて女の子は目をつむる。

 何をするつもりなのかと彼女の手を見ると、手が触れているところからぼんやりと光がこぼれ出ていた。

これは……手が光ってる?
大地の恵みよ。大いなる母なる力よ。その力を恵み給え。この者の身体を癒し給え……

 彼女の手からあふれ出たかのような光が僕にまで伝わってくる。

 触れられているところがあたたかい。まるで温石マッサージをされているかのようだ。

 じんわりとした感覚が肩から全身に広がっていく。

 ああ、これはまるで温泉につかってリラックスしているみたいだ。気持ちがいい。

 すぅと光が消えた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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