第43話2
文字数 791文字
手早く服を脱いで奥へと向かう。
少し早い時間のせいか先日より人の数はまばらだった。お陰で石榴口の中も空いている。
頭をぶつけないように石榴口を潜って、まずは並んで湯船に入る。
相変わらず不動は黙りこくっている。
でもあえて聞こうとは思わない。話す必要があると思えば自分から切り出してくるだろう。
湯船を出て体を洗い、また湯船に入る。それを二度繰り返した後だった。
……なん、だと?
今、経験済みって言いましたか?
そっか、そうなんだ。
こっちの世界ではそういうのが普通なのか。
そうなんだ……。
言葉に詰まる。
僕のケースは参考にならないからだ。
空から落ちている時にそうなってましたと言って信じてもらえるだろうか。
それを不動が真に受け止めて「崖から飛び降りる!」なんて言い出しても困るし。
だって不動は人生の先輩だもの――という己の葛藤をぐっと押し込める。
いいんだ、そんなのは些細なこと。気にすることじゃない。
僕だってそういうことがあればいつかきっと……多分。