第44話1 そろそろ出て二階に行こうか
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小銭を出してお菓子を確保する。葵から話を聞いた時から食べてみたいと思っていたんだ。
黒くて四角いので羊羹だろうか。
並んで腰かける。窓から入る風が湯上りの体に気持ちいい。
二階はほどよい混み具合だった。
横になったり娯楽に興じたりしている人たちをこうやって眺めているだけでこっちまで楽しい気分になる。
お茶で口の中を湿らせてからお菓子を口に入れる。
不動はまさに鬼一口だった。
口の端についた餡を頭の上に乗せた手ぬぐいの端で拭う。
蓬髪を撫でつけた男の人が窓の一角を占めていた。
そして以前と同じように体を乗り出して下を見ている。
微妙に鼻の下が伸びている……気がしないでもない。
そこまで誘われて断るのも空気が読めないというものだ。付き合うとするか。
別に下心があったわけではない。友人の誘いを無下にしたくなかっただけだ。いや、本当に。
枠の一角を確保して二人並んで一階を見下ろす。