第27話2

文字数 1,060文字

戦いたいっていうのなら俺が相手になるぜ! 

今回は留守番だったからな。身体が鈍ってたんだ!

でも、機巧姫がいないと話にならないわよ
うっ、それはそうだけどさ……俺を連れ合いにしてくれる機巧姫がなかなかいなくてさ……

 候補生に適切な機巧姫を見つけるところから始めないと駄目なんだろうな。

 さて、それにはどうしたものか。

 まずはどうやったら機巧操士になれるのかを明らかにしなければいけないんだけど、そこはゲームと同じなのだろうか。

こんなところにいたのか

 それは低く抑えた声だった。

 振り返ると、入口に人影が二つ見える。

ふん、早速大きな顔をして構内を歩き回っているとはな。

誰の許可をもらっている。

それに穢れた血を引く連中と呑気に立ち話だと。ちっ、道場の品格が落ちるわ

 澪の顔から表情が消え、不動は面白くなさそうに鼻を鳴らし、翠寿が怯えたように僕の背後に隠れた。

 よし、翠寿を怯えさせた以上、こいつは僕の敵に決定だ。

 たとえその声が地獄の番犬を彷彿とさせようとも、だ。

ウメゾノ様。

もう体調はよろしいのですか

 澪の問いかけに返事はない。むしろ蔑むような目で澪を睨め付けている。
深藍の君も何事もないようですね
 返事がなかったことも気にせず、澪はもう一人にも声をかけた。梅園さんの半歩後ろに控えている機巧姫が頭を下げようとする。
不要なことはするな

 叱責するような声にその動きが止まった。


 梅園さんは立派な体躯をしている。一八〇センチはあるだろうか。

 制服の上からでも胸や肩に十分な筋肉がついているのがわかる。立ち居振る舞いにも隙がないように見えた。

 腰には反りの強い太刀を佩き、小刀も差している。侍と言われれば、なるほどと思える雰囲気を持つ男だった。

 後ろで一つに束ねた髪の下にある顔つきは精悍といえばよいのか獰猛と言うべきか。戦う者としての気概を感じさせる顔つきだ。


 一方の深藍の君は、肩のあたりで切り揃えられた髪と、ぼんやりとした表情のせいでやや幼く見える。

 梅園さんとの身長差もあって、最初は子供ではないかと思ってしまった。


 葵以外に初めて機巧姫を目にしたわけだが、なるほど、これは一目で人間ではないとわかる。

 髪の色が自身の名前と同じだし、表情が固くてほぼ固定されているのだ。

 また動きもギクシャクというのではないが、どこかに違和感がある。まるで3Dデータで作成したキャラがアニメに登場したときのような奇妙さ、浮いた感じがあるのだ。

 これが機巧姫の一般的な姿なのだとしたら、葵を見た人たちが本当に機巧姫なのかと疑った気持ちがわかる。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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