第63話4

文字数 688文字

兄貴、元気になったんだって?
 不動と翠寿が戻ってきた。
心配かけたね
いや、全然。

兄貴なら平気だって俺は信じてたし

くすくす……
どうしたの
主様が傷ついていたと知って一番慌てていらした方でしたから
ちょ、それは言わないでくれって頼んでおいただろ!
それは心配をかけて悪かった
だから俺は心配なんてしてなかったって! 

そんなことより飯にしようぜ、飯! 

ああ、うまそうだなあ。さっきから腹の虫がうるさかったんだ

 不揃いのお椀に汁物が取り分けられる。
おいしーです!
はむ、はむはむ……ごくん。おかわり!
アワブチ様はもう少しお休みになっているでしょうから、コウジュちゃんもこちらへどうぞ

 紀美野さんは自分の隣をぽんぽんと叩いて紅寿を呼び寄せる。

 しかし紅寿は顔を上げただけで澪の元を離れようとしない。

犬っ子姉。食える時に食っておけ。いざという時に空腹で主を守れないなんてことがないようにな。

しかしあんたの作る飯は相変わらずうまいな。おかわり!

 不動は三杯目にも関わらず堂々とおかわりを要求する。

 しばらくの逡巡の後、紅寿も腰を上げる。

 お椀に息を吹きかけて冷ました汁を口に入れるとピンと耳が立った。それから勢いよくお椀の中のものをお腹に収めていく。

フブキ様はこちらをどうぞ。

ゆるめに作ったので消化がいいですから

 お椀の中身は少し赤味色のついたとろとろのおかゆだ。

 柔らかく煮込まれた小豆と小さくサイコロ状に刻まれているのは凍り豆腐かな。

 真ん中には色鮮やかな梅干しが鎮座している。

 見ただけで口の中に唾液があふれてきた。

いただきます

 うん、塩味が効いていて美味い。

 これならいくらでも食べられそうだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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