第25話3

文字数 1,177文字

昨日は姉貴も大変だったんだろう。

でもいいよなー、姉貴は。戦に行けてさ。俺も行きたかったよ

 澪は困ったような顔をしていた。

 そりゃ、戦争は行かないですむのならそれにこしたことはないだろう。


 大平さんはチラチラと僕を見ている。

 なんだろう。初対面なんだけど、気になることがあるんだろうか。

なあ……もしかして、そっちの奴が噂の操士なのか? 

敵の機巧武者を三旗も倒したっていう

はい。こちらがフブキ・キヨマサ様。

それと連れ合いの葵の君です

お、おお……マジか……すげえ。こんな若いのに……

 目をキラキラとさせて見ているのは――僕か?

 今までは葵にばかり視線が集まっていたから、ちょっと新鮮っていうか、なんか照れるな。

不吹です
お、俺は! オオヒラ・フドウっていいます! 

お、鬼です!

 声、でかいでかい。でかいって。

 そんな大声で言わないでもわかるから。


 ごしごしと右手を手ぬぐいで拭うと、僕の前に差し出す。

あの! 

握手してくらさぃ!

 あ、噛んだ。

 微笑ましいなあ。握手ぐらいならいくらでもしてあげるのに。


 手を握る。

 ゴツゴツして、分厚い手をしていた。

 鍛錬を積んだ者の手だ。


 ぎゅっと力を入れると、大平さんも力を入れてくる。

 なるほど、鬼らしく力比べというわけか。

 ここは舐められないためにも全力で応えさせてもらおう。

くっ、こんな……すげぇ、くくぅ、この俺が力負けする、のか……だけどこのまま負けるわけには……

 意外にも善戦できていた。

 こちらはそこまで力を入れているわけでもないのに、大平さんは顔を真っ赤にしている。

ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……

 んん? さっきより握力が強くなっているような。

 大平さんの瞳が赤く光っているのに気が付いた。

 これはどういうことだ。急に握力が強くなってるぞ。

 それでも力負けはしていない。まだ余裕がある。

そ、そんな……これでも勝てない、のか……

 しばらくそうして力比べをしていたが勝敗は決した。

 時間をかけて互いに力を抜いていき、それから手を放す。

 大平さんは痺れているのか右手をブラブラさせていた。

 僕の方は平気だ。でもこんなに腕力あったっけ?

あんた、すごいな! 

まさかこの操心館に俺より力が強い人がいるなんて思わなかった。

しかも〈金剛(こんごう)〉を使っても勝てないなんてなあ

こんごう?
ああ、俺は鬼だからさ。腕力とかを一時的に高めることができるんだよ。

普通の奴なら手の骨が砕けてもおかしくないのに、あんたは本当にすごいよ

 笑ってるけど、何気に怖いことを言ったよね?

 自分の手を見て握ったり開いたりしてみた。問題はない。

 もしかしたら身体能力が向上している?

 もともと体力全般に自信があるわけではない。むしろ座り仕事だったから体力はない方だろう。

 でも大平さんの言っていることが事実なら、今の僕の腕力はかなりのものってことになるんだけど。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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