第25話3
文字数 1,177文字
澪は困ったような顔をしていた。
そりゃ、戦争は行かないですむのならそれにこしたことはないだろう。
大平さんはチラチラと僕を見ている。
なんだろう。初対面なんだけど、気になることがあるんだろうか。
目をキラキラとさせて見ているのは――僕か?
今までは葵にばかり視線が集まっていたから、ちょっと新鮮っていうか、なんか照れるな。
声、でかいでかい。でかいって。
そんな大声で言わないでもわかるから。
ごしごしと右手を手ぬぐいで拭うと、僕の前に差し出す。
あ、噛んだ。
微笑ましいなあ。握手ぐらいならいくらでもしてあげるのに。
手を握る。
ゴツゴツして、分厚い手をしていた。
鍛錬を積んだ者の手だ。
ぎゅっと力を入れると、大平さんも力を入れてくる。
なるほど、鬼らしく力比べというわけか。
ここは舐められないためにも全力で応えさせてもらおう。
意外にも善戦できていた。
こちらはそこまで力を入れているわけでもないのに、大平さんは顔を真っ赤にしている。
んん? さっきより握力が強くなっているような。
大平さんの瞳が赤く光っているのに気が付いた。
これはどういうことだ。急に握力が強くなってるぞ。
それでも力負けはしていない。まだ余裕がある。
しばらくそうして力比べをしていたが勝敗は決した。
時間をかけて互いに力を抜いていき、それから手を放す。
大平さんは痺れているのか右手をブラブラさせていた。
僕の方は平気だ。でもこんなに腕力あったっけ?
笑ってるけど、何気に怖いことを言ったよね?
自分の手を見て握ったり開いたりしてみた。問題はない。
もしかしたら身体能力が向上している?
もともと体力全般に自信があるわけではない。むしろ座り仕事だったから体力はない方だろう。
でも大平さんの言っていることが事実なら、今の僕の腕力はかなりのものってことになるんだけど。