第4話3

文字数 676文字

吾は主様のもの。

常にお側にあるもの。

いかなるときも主様を守るもの……いかようにもお使いください

そ、それなら、まずはこの状況をなんとかしてくれっ
わかりました。

どちらにせよ、主様にはやらなければいけないことがありますから

 体の自由がきかない。

 手足の先からゆっくりと感覚が失われていく。

 青一面だった視界が、四隅から暗く滲むようにぼやけていく。

戦って生き残らなければなりません。

大丈夫です。

主様には吾がついているのですから……

 おいおい。

「戦って生き残らなければならない」だって?


 そのセリフには聞き覚えがある。

 僕が書いた文章(コピー)だ。収録のときにだって何度も聞いた。

 だからわかってしまった。

君は……君の名前……き、君は誰なんだ……
先ほど主様がつけてくださったではないですか
 まるで誇らしそうに、それでいて秘密をそっと打ち明けるようなひそやかな声だと思った。
葵、と。

吾の名は葵。

機巧姫(からくりひめ)――葵の君です

 優しく包み込むような声に確信する。
……僕は夢を見ているわけじゃないんだな?
はい、主様は夢を見ているわけではありません
……僕には目的がある。そうだな?
はい、主様には目的があります。

戦って、生き抜いて、戦乱を鎮め、世を平定していただきます

……戦うのは嫌だな。

でも生き残るためなら仕方がないか

覚悟は決まりましたか?
ああ。

僕にやらなければならないことがあるのなら、やってやるさ

吾を存分に使ってください。吾は主様のものなのですから。

それでは参りましょう。

戦う者として戦乱の地へ

 ブツンと。

 モニタの電源が切れるように世界が闇に閉ざされた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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