第16話1 脱衣所へ行くと着替えが用意されていた

文字数 1,064文字

 脱衣所へ行くと着替えが用意されていた。

 手に取ってみると広幡館長が着ていた制服に似ている。制服なんて高校以来だ。

 ボタンでとめるかわりに要所を紐で縛って着るタイプなので着替えに戸惑うこともない。上着の丈はかなり短かった。

 裾は絞れるように紐が通されているので、思っていたよりも動きやすい格好だ。

お待たせ
お湯加減はいかがでしたか?
うん。よかったよ。

ところでさ、翠寿のことなんだけど

 更衣室の前で待っていてくれた葵に翠寿のことを聞いてみると、僕の入浴のお世話をするというので入れたとのことだった。
そういうときは事前に相談をしてもらえると嬉しいかな
そうですね。

これからは主様のおっしゃる通りにいたします

 なお、脱衣所で翠寿が自分の身体を拭く代わりに全身をプルプルさせて水気を切ってくれたおかげで大変な目にあったのだが、慌てて僕の身体を拭いてくれたので不問に付すという一幕があったことを付け加えておこう。


 ホカホカの僕と翠寿、それから葵の三人が廊下で待っていると制服に着替えた澪がやってきた。


 女子の制服は上着の肩に切れ込みがあり、身頃と袖は千鳥がかりに紐で繋がっている。隙間から素肌が見えているから、下には薄手でノースリーブの腹掛けを着ているのだろう。袖は細いのでたすき掛けなどしなくても腕の取り回しに苦労はしなさそうだ。

 股下のある袴の丈は短いので股立ちがなければ普通のミニスカートにも見える。そこに太ももまである足袋を履いているので見事な絶対領域を形成していた。

 どういう技術でニーハイソックスを実現しているのかとても気になる。職人の技とでも言うつもりなのか。

ごめんね。待たせちゃった?
いや、別に待つってほとじゃないよ。

それより、それがここの制服?

うん、そうだよ。似合う?
すごく似合ってる。かわいいね
私も気に入ってるの。

忍装束ほどじゃないけど動きやすいしね

それより翠寿のことは先に言っておいてほしかったな
あー、そうなんだけど……だってキヨマサ君って人狼の子たちのことになると態度が変わるっていうか、正直、怖いんだもん
 おおう、それは事実であるだけに何も言えないです。
ねぇ、スイジュ。キヨマサ君とはなんにも……あれ? どうしてあなたもホカホカなの?
おにーちゃんといっしょにお風呂はいったの!
 ピキッ空間に亀裂が走ったような音がした。
キーヨーマーサーくぅ~ん?

 いや、なんでそんな地獄の底から聞こえてくるような低音ボイスで迫ってくるのですか?

 僕は翠寿が一緒にお風呂に入りたいっていうから、その希望をかなえてあげただけだというのに!

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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