第36話2

文字数 747文字

 店員さんが離れていくと、何故だか澪が不思議そうな顔をして僕を見ていた。
僕の顔に何かついてる?
ううん。なんていうか、こういうところでの注文慣れをしてるなあって思ったから。

っていうか、キヨマサ君ってそもそもいくつなの?

 中の人は二十六歳独身童貞ですが何か?

 さすがにこの外見で二十六歳は無理があるよな。半分の十三だと元服する年齢になっちゃうから十四にしておくか。

十四だけど
そうよね、それぐらいよね。

でもなんだかさ、時々私よりずっと年上なんじゃないかって思うことがあるのよ。

逆にこんなことも知らないのっていうときもあるし

……小さな村から出てきたばかりなんだから仕方ないだろ
城陽なんだから小さな村でもすごいんじゃないの? 

私なんてもっと辺鄙なところで暮らしてた自信あるからね。すっごい山の中で周りには山と木しかないんだから

 そうは言うけど、澪はこの世界で生まれ育ち、その上に領主様だからなあ。僕とは立場が違いすぎる。

 地元に帰ればお殿様とでも呼ばれているのだろうか。

キヨマサ君って難しいことを知ってたり詳しいくせに、その辺にある生活用の道具を手に取ったりするのは初めてみたいなところもあったし……
あー、そうかもね

 だって竹で作った小物入れとか触ったことなかったし、草鞋なんて作ったこともなければ履いたこともなかったし、行灯(あんどん)提灯(ちょうちん)の存在は知ってるけど火なんてガスとかでしか使ったことなかったんだから仕方ないじゃないか。

 この時代にアイロンがあるを知って驚いたよ。火熨斗(ひのし)っていう取っ手の長い小鍋状のものに炭火を入れてアイロンみたいに使うんだってさ。

 秤だって学校の授業で使った上皿天秤しか知らない。(おもり)の位置を動かして重さを測定する秤なんて初めて見た。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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