第19話2

文字数 1,016文字

 迂闊に相手を信じて後で痛い目を見るのは遠慮したい。

 さて、ここはどう対応すべきか。

 大きすぎる要求をして墓穴を掘るのは避けたい。

 逆に全く望まないのもよくない。

 欲がないと思われるならばまだしも、何か企みがあるのではないかと相手を不安にさせてしまう可能性があるからだ。


 すでに天弓と人刀をもらっているのだから、そこそこの要求をするのが望ましいだろう。

 この世界の元になったであろうゲームを作ったとはいえ完全に同じではないし、知らないことがあまりに多すぎる。戦いが身近にある世界では無知は即ち死に直結しかねない。

 今の僕の急務は、この世界での常識を身に着けることだ。それを学べる状況を整えたい。

 あとは衣食住の保障があればいい。それ以上は過剰な要求になる。

どうした。

なんでもよいのだぞ。好きなものを望むがよい

それでは申し上げます。

しばらくこの国に滞在する許可をいただければと思います。

一念発起して生まれ育った故郷を飛び出してきましたが、未熟者ゆえに世間に通じておりません。

ですからこの国の人々と触れ合い、いろいろなことを学びたいと思うのですがお許しいただけるでしょうか

構わぬぞ。お主が望むのならいつまでもこの関谷で暮らすがよい。生活は保証しよう。

だが本当にその程度でよいのか? 

なんであれば、儂はお主を知行一千石で召し抱えようと思っておるのだが――

こ、国王様! それは……それはあまりに過ぎますぞっ。

一千石とは……苦労して新規に開拓した土地の半分ではありませんかっ。

それをどこの馬の骨とも知れぬ者に与えるなど、家臣一同の不興を買いかねませんぞ

 慌てて口を挟んだのは福岡家老だった。
何を言うかっ
 諌めようとした福岡家老を国王が一喝する。
この者は葵の君のような稀有な機巧姫を持っておる。それだけでも大身(たいしん)は間違いない。

もし関谷が大国であれば一万石をもって迎えたとしてもおかしくはないのだぞ。

それに我が国に攻め入った三旗の機巧武者を単旗で倒した戦果を忘れたわけではあるまい

そ、それは……

 福岡家老は口をつぐんで俯いてしまう。

 と思ったら、僕の方を睨んでませんか?

 嫌だなあ、僕は何も言ってないのに。


 いきなり知行を一千石とやると言われても僕だって困る。

 知行を持つということはその土地の領主になるということだ。知事は言い過ぎとしても、市長とか村長とほぼ同義だと思えばいい。

 いきなりそんなことを言われも、その、なんだ……困る。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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