第42話4

文字数 506文字

これは……水縹の勾玉ですかな
水縹の?
 僕たちの会話が耳に入ったのか、再び澪がやってくる。
そうだよ。これを修理してもらうために須玉匠の所へ行くんだ
なかなかよい形ですな。んん、しかしこれは……
 中伊さんは手にした勾玉を矯めつ眇めつ眺めている。
かなり(こご)っていますね。

これでは機巧姫も動かないでしょう

凝りってなんですか?

 常にない真剣な表情で澪が問う。

 自分のパートナーのことだから気持ちはわかった。僕だって葵の関することであれば目を変える自信がある。

翳や歪みともいうのですが、要するに勾玉によくないモノが溜まっている状態です。

機巧姫は勾玉を力の源としていますが、力を使うほどこうして色が濁っていくと言われています

それは直るものなのでしょうか
ええ。優れた須玉匠は凝った勾玉を綺麗にする方法を知っていると聞いたことがあります
 澪が背筋を伸ばして、土縁に座ってお茶を啜っていた僕を見下ろす。
キヨマサ君! 

すぐ! すぐに須玉匠のところに行こう!

それは無理だよ。

手紙の返事が来てからでないと

そんな~。

ううっ、早く手紙を送ってきて~

 パタパタと足を踏み鳴らす澪の隣で翠寿が澪の真似をしていた。

 翠寿はいちいち可愛いなあ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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