第8話1 ガサリと近くの草むらで音がした

文字数 758文字

 ガサリと近くの草むらで音がした。

 おもむろにそちらへ視線を向ける。

 ひょっこりと顔を出したのは女の子だった。

えっと……あの?

 声も若い。まだ高校生ぐらいだろうか。

 しかし、少なくとも女子高生ではないのはわかる。それらしい制服を着ていないし、オシャレな私服でもない。

 彼女が着ているのはなんといえばいいのか……紺色の忍装束だろうか。


 首元までぴったりと覆った水着のような内着に、和服のような前合わせの袖のない上着を重ねている。

 相撲の呼び出しがつけるような裁着袴(たっつけばかま)の丈は短くて、一見するとショートパンツっぽい。しかも左右が広く開いているから太ももがチラチラ見えていた。

 腰には棒のような――おそらくは忍者刀ではなく短刀を差している。

 指が露出した手甲は上腕あたりまでの肌を隠し、足はニーハイソックスっぽくみえる。足元は脚絆をつけていた。

 だから忍びといえば忍びに見えなくはない。


 ただし、ゲームキャラのデザインとしてみれば彼女の装束はやや地味だ。

 見た目重視なら肌が露出している部分は網タイツ的なものがあるといい。エロいからな。

だ、大丈夫!?
 少女が慌てたような声を上げたかと思うとこっちへ向かって走ってくる。
う、ええぇぇ……!?

 びっくりして後ずさろうと思ったけど体が思うように動かない。そもそも僕の背後には葵がいて移動することができないわけで。

 視線を上げると葵はどうしたのか?と言いたげな顔をして僕を見下ろしている。

もしかしてさっき葵が言ってたのって……
いいえ、彼女ではありません
 そうなのか。だとすると、この近くにはまだ他に誰かいるってことだな。
どこか怪我したの? 

私に見せてみてっ

 ズザーとスライディングでもするかのように滑り込んできた女の子は顔やお腹に手を当てて僕の反応を確認している。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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