第33話2

文字数 689文字

僕からもお願いするよ。

葵のお化粧の先生になってもらう報酬として僕からは紅を送らせてもらう。それでどう?

ふえぇ!? 

そ、そんなこと言われたって、その……紅なんてもらったら、えっと、まだそういうのは困るっていうか……

紅だと困るのか。じゃあ、他のでもいいんだけど。

綺麗に白が出る白粉があればそっちでもいいし

それでしたら白牡丹をおすすめいたします。

下地として塗りますとたいそう色が白くなるお品でございます

 おそめさんが名刺ぐらいの大きさの包みを手に持っている。

 一包で二千五百圓か。

じゃあ、それを十包ほど――
ちょ、ちょっと待って! 少し考えさせてっ
お、おう……慌てて決めなくてもいいしね。必要なものを選んでよ

 女の買い物が長いのはよく知っている。

 ああでもない、こうでもないと悩んでいる時間が楽しいのだそうだ。

 僕の場合は買うものは事前に決まっていて、あとは値段を見て買うか買わないかの判断をするだけだけど、女性は過程を楽しむのだと妹との買い物で嫌というほど教えられている。

いや、そういうことじゃなくて! えっとえっと……なんていうか、その……ね。紅っていうのは特別な意味があるから……
それなら白粉でもいいし、手鏡とかでもいいんじゃないかな。

刷毛みたいな消耗品でもいいと思うけど

それでしたらこのあたりがよろしいかと
 ささっとおそめさんはおすすめの品を並べてくれるが、どれもいい値段がついている。ここぞとばかり上物を出しているな。別にいいけど。


 澪はうんうん唸りながら考え込んで……っていうか、顔が赤くなっている。

 もしかしたら体調が悪いのだろうか。それとも考えすぎて知恵熱でも出たとか?

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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