第50話1 くぅぅ~

文字数 896文字

くぅぅ~
ふぅ~。いい湯だな……
ええ……
 三人並んで湯船につかっていた。
お城にもお風呂ってあるんですか
あるにはあるが湯船には入れないのだ
 お城のお風呂は蒸気を利用するサウナのような形式なのだそうだ。
シライト様、兄貴。

風呂からあがったら二階へ行こう

 それは単に二階からお風呂場を覗きたいだけなのではなかろうか。

 そいう道に白糸様を引き込むのはどうかなあと思わないでもない。ないけど、白糸様がどういう反応をするか見てみたい気持ちもあった。

そのような場所があるのか。

それなら私も行ってみたい

 ご本人も前向きなようだしね。

 この件については誰も悪くない。


 湯船から出て洗い場で体を洗ってから二階へあがることにする。

お菓子を三つもらえますか
 受け取ったお菓子はたっぷりの小豆餡をまぶしたぼたもちだった。これは美味しそうだ。
どうぞ。お茶とお菓子です
これはありがたい
うん、美味いな。兄貴、ごちそうさま! 

じゃあ、窓際に行こうぜ!

 一口でぼたもちを平らげた不動に続いて窓際へと向かう。
ほう、入ってくる風が気持ちいいな
そうですね

 不動は胸元を開けてパタパタさせている。

 僕は窓から体を乗り出して、外を確認をしてからひらりと手を振った。

シライト様、見てくださいよ。

ここからお城が見えますよ

おお、本当だ。

あそこからでは皆の顔はわからんが、ここからならよくわかる

 仕事が終わって家路に着く人や買い物をする人たちが通りを歩いている。
そしてここには実にさまざまな者がいるのだな

 部屋を見渡しながら感心するように白糸様が呟く。

 銭湯の二階には町人だけではなく下級の武士もいる。

 町人と武士が同じ場所で談笑をしているのは、お城で生活をしている白糸様にとっては不思議な光景なのかもしれない。

身分の違いもなく、こうして一所に集まり話をしたり遊びに興じたりできるのは素晴らしいことだと思う
せっかくですから白糸様も話をしてきたらどうです
それができればいいのだが私にはそのような度胸はないようだ。

ここにいる者たちが私の顔を知っているとは思わないが、私の方が気にしてしまう

 何事も一度ですべてする必要はない。一つずつやっていけばいいのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色