第57話4

文字数 707文字

吾たちが貴方の後をつけていたことに気が付いていたのですか
いいや。

あの店には複数の結界が張ってあってそれに反応があったからな。俺たちの動きに感づいた者がいると想定していただけだ。

まさか人狼と機巧姫が俺をつけているとは思わなかったがな。

おまけに鬼もいるのか。これはまた役者を揃えたものよ

 先ほどの衝撃で被っていた頭巾が取れて不動の角が露になっている。
なんにしてもこの状況は面白い。

天槍・逢初(あいそめ)の九十九として槍の振るい甲斐があるというもの。楽しませろ

兄貴、気をつけろ! 

武具に憑いた九十九は鬼や人狼にも匹敵するぞ!

 八岐に連なる九十九の一族は器物と対の存在だ。

 憑いた器物によって発揮する能力も千差万別で、武具に憑いた九十九であれば驚異的な戦闘力を発揮する。

 槍の男は神代式である葵の一撃を弾いたことで、それを証明してみせた。

いやいや、ここは任務を最優先してもらいたいんですがねェ
している。俺の最優先任務は強者と戦うこと。

どちらにせよ取引場所に到着したら全員始末するつもりだった。故に俺がやることは変わらん

そ、そんな!? 

娘は? キミノは無事なのか!?

野蛮なことは考えてなかったんですがねェ。

武具の九十九にはありがちとは言え、イワトにも困ったものでさァ。

ああ、そちらの兄さんと機巧姫も勝手に動かないでくださいや。せっかくの計画を台無しにしないでくだせェ

 視線だけで身動きを止められた。

 当然だが蓬髪男の言葉を信じるつもりはない。

 後腐れなく殺してしまった方が楽と考えていたとしても不思議はないからだ。


 槍の男――岩戸は穂先を葵に向けたままだ。

町での見張り役には飽き飽きしていたが、この場は退屈せずに済みそうだ
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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