第34話3

文字数 705文字

 突き当りに屈まないと先へ進めない場所があった。

 正面の板には色鮮やかな風景が描かれている。思いのほか写実的で、これが富士山の絵だったらまさしく銭湯だろう。

 奥から出てくる人の体が濡れているからこの先に湯船があるのは間違いない。

 しかし、どうしてこんな入りにくい構造になっているのか。もしかしたら茶室の入口みたいな理由があるのかもしれない。

 順番に入るようなので並んで待っていると、ぽんと肩を叩かれた。

はやいのね
み、澪……

 僕の後ろに並んでいたのは澪だった。

 当然、澪も裸だ。

 堂々としたもので前を隠す素振りすらない。

どうかした?
あー、いや。なんでもない……よ

 あれ? 光は? 謎の光は仕事をしないでもいいんですか?

 もしくは湯煙とか、シャンプーのボトルだとかでもいいんですけど!

 だってこれではブルーレイ版ですよ! 全部見えちゃってますよ!


 視線を下へ向けていく。

 腰はきゅっとすぼまっていてお腹のあたりはすっきりしている。

 腹筋が割れているということはないけど、戦う者として鍛えているからだろうか。お尻へ続くラインは女性的ではあるけど無駄のない体つきだと言えた。

なによ、ジロジロ見たりして。

どこかおかしいところがあった?

 そう言いながらクルリと体を回して確かめている。

 おかげで僕は澪の体を余すことなく拝見することができた。

ほら、まずは湯船につかりましょ。

頭をぶつけないようにしてね

 板をくぐり抜けようとする澪が頭を下げる。

 それに続こうとしゃがみかけ、思わず頭を上げてしまった。

あっ
 ゴンという鈍い音。
痛い……
だから気を付けるように言ったのに。

結構、石榴口(ざくろぐち)に頭をぶつける人っているんだよね

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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