第19話3

文字数 760文字

 だいたい知行持ちになると澪のように人を雇って養わないといけない。

 戦国時代だと戦争が起きた場合、一万石でおよそ二百人を動員したらしい。単純計算をすれば一千石なら二十人だ。それ以外にも女中とかも雇う必要がある。

 無理だ。そんな責任はとても負えない。

さすがにそれは辞退させてください
そうか。まあ、儂はいつでもお主の仕官を待っておるぞ

 いや、だからですね。仕官とか無理ですからっ。

 ゲーム業界に就職するのとは状況が違いすぎる。

しかしお主の暮らす場所となるとどうしたものか。

城内の武家屋敷に用意したいと思うが……

それでしたら客将として操心館に入っていただいてはいかがでしょうか。

フブキ殿にもよい経験になるのではないかと

なるほど。あそこならば部屋も賄いもあるな。生活するのは問題なかろう。

知行が不要というのなら侍大将として三百石の蔵米で報いればよいか。

それにあそこなら近い年頃の者たちも詰めておるし、うってつけやもしれん

 あ、井田家老の提案の意図がなんとなく読めた。

 僕と葵を操心館に放り込んで、できたばかりの学校に箔をつけようとか、芽が出ていない機巧操士の候補生たちと一緒に生活させることで一人でも一人前に成長してくれれば儲けものだと企んでるな。

そうだな。操心館でよいか。

上士(じょうし)用の部屋もあったな

はい。部屋の数は十分に。

個人的には国内にあるすべての機巧姫と人形雛をあそこに集めて管理すべきだと思っているのですが……

その気持ちはわからんでもない。だが人形雛まで取り上げては民が不満に思うぞ。

それを先ほど指摘したのはお主ではないか。何事も欲をかきすぎず、ほどほどが肝要だぞ。カカカ

 もしかしたら藤川国王と井田家老は操心館を国防を担う人材育成以外に、人形の博物館にでもするつもりだろうか。マニアックな趣味をしているなあ。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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