第62話1 アツい

文字数 666文字

 アツい。

 喉が渇く。

 苦しい。

 呼吸ができない。


 体の奥底に炎を吐き出す種火が燻っているみたいだ。

 籠った熱は際限なく高まり、内側から這いずり出ようとしている。

ふうあああ、はああああぁぁぁ……はあぁぁぁ……

 体内の熱をすべて吐き出すように長く長く息を吐いた。

 少し楽になる。


 ゆっくりと目蓋を開く。

 知らない天井だった。

 なんだか視界が歪んで見えるのは体が火照っているせいか。


 体を動かそうとすると背中にぬるりとした感触があった。全身が汗みずくだ。

 眼窩にも汗が溜まっていて気持ちが悪い。


 汗を拭おうと右手をあげようとしたけど何かが絡みついているのか動かなかった。

 視線を向けるとふわふわの毛並みをした耳が顔のすぐそばにある。

……おおう

 これはきっとあれだ。頑張ったご褒美に神様が見せてくれた夢なのだろう。

 手を動かせないので遠慮なく鼻先を埋めさせてもらった。

すぅぅぅ……ふう。

この匂い、嫌いじゃないかも

 どことなくお日様の匂いを思い出す。干した布団の匂いだ。

 存分に堪能した後に顔を上げる。

じー…………

 知っている顔が形容しがたい表情で見下ろしていた。

 困っているような、嬉しそうな、ほっとしているような、呆れているような……いくつもの表情がミックスされている。

やあ、澪じゃないか。

僕の夢にまで出張とはご苦労なことだね

 そういえば酔いつぶれた澪が僕の名前を寝言で呟いていたな。だったらこれでお相子だ。


 声をかけたのに澪は返事をしてくれない。

 小さく鼻を鳴らしてから手が差し出されて額に当てられた。

 ひんやりしていて気持ちがいい。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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