第2話4

文字数 882文字

 全長が五(メートル)ほどもある人の姿をした機巧武者は戦場における決戦兵器である。

 ここに集結した澪たちの機巧武者をすべて倒しさえすれば、歩兵などあとからどうとでも処理できるという相手の思惑は正しい。

 正しいからこそ前提である目標を達成させるわけにはいかなかった。

 そのための戦力の集中であり、戦場の設定である。


 敵は弓を防ぐ巨大な竹束(たけたば)を担ぎ出し、身を隠しながら少しでも距離を詰めようとしていた。

ちぃ、小賢しいマネを!

 景虎が放った矢は分厚い盾に阻まれて敵に届いていない。

 強弓を持つ笑の矢ですら弾かれていた。

弓を得意とする関谷を攻める以上、弓矢に対する準備くらいはしてきますよね
感心している場合ではありませんよ。

さすがにあれはやっかいです。

曲射をしようにもこの人数と距離では効果はあまり望めないでしょうし

 このままでは遠くない未来、敵の機巧武者が陣を突破するだろう。

 そうなればもともと数に劣る澪たちに勝ち目はない。

縄を切れぇい!

 広幡から指示が出される。

 丸太を束ねる足元の縄を景虎が腰に差していた小太刀で切った。

これでも喰らえ!

 滑り始めた丸太を蹴ると、ガランゴランと重い音を立てながら坂を勢いよく転がり落ちていく。

 ガゴゴン!という鈍い音が眼下から聞こえてきた。

一段下がるぞ。

遅れるな!

応!

 丸太の仕掛けはまだいくつか残っている。

 相手からの矢を防ぐ壁であり、転がり落として攻撃する武器であり、足止めをする罠でもある。

 こうして一旗でも多く敵の機巧武者を落とし、遅滞作戦を行うのが澪たちのここでの役割だった。

(お願い……はやく……はやく来て。

もうそんなに時間は稼げそうにないから……)

 この作戦を授けていった者に心の中で呼びかける。
ミオ、心配はいりません
どうして?
何故なら、あの方には神代式の機巧姫がついていらっしゃるのですから。

彼女がお側にいる限り、心配は無用なのです

……そうだね。

本当に

 圧倒的不利な状況にあってなお、彼は笑うことを忘れなかった。
今は戦おう。

彼を信じて……

 関谷国の存亡をかけた戦いは最終局面をまだ迎えてはいなかった。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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