第12話3

文字数 986文字

この子、忍びとしてもとっても優秀なの。

私の目や耳となって、いつもいろいろな情報を集めてきてくれて。

今回も三桜に機巧武者が侵入しているっていう報告をしてくれたし、キヨマサ君の戦いを目撃して教えてくれたしね

え、見てたの? 

僕の戦ってるところを?

 視線を紅寿に向けると、さっと澪の背後に隠れられてしまった。

 あう、これはまともに話をできるようになるまで時間がかかりそうだ。

……
へぇ、そうなんだ
……
そんなに強かったの?
……
うわー、私も見て見たかったなあ

 聞こえてくるのは澪の声ばかりだ。

 紅寿は僕に話し声すら聞かれたくないのだろうか。

 悲しい。

 どんな鳴き声――声をしているか聞かせてくれてもいいじゃないか。

あの忍びは声を発してはいませんよ
そうなの?
はい、先ほどから喉が動いていませんから

 僕の場所からだと澪の体の陰で見えないけど、葵が言うのならそうなんだろう。

 もしかしてこの世界の犬耳娘は通常の会話ではなく独自の会話術を持っているのだろうか。だとしたら澪はどうやって会話をしているんだ。

紅寿は声を出してないみたいだけど、どうやって会話してるの?
それは普通に……あ、そうか。

うん、この子、ほとんどしゃべれなくって。

でも私は〈友愛の声〉が使えるからこの子が何を考えているかはわかるの。

この子だけじゃなくて、動物や植物の考えていることもある程度は理解できるんだけどね

犬耳ついてる子はみんなこんな感じなの?
ううん。この子以外は普通にお話することができるわよ。

ただこの子はちょっとあって……あと、この子の一族は人狼(じんろう)よ。犬じゃないからね。

犬って呼ばれると怒る人もいるから気を付けて

 それが彼女みたいな犬耳――いや、狼耳を持つ種族の名称なのか。

 人狼といえばウェアウルフ。またはライカンスロープ。狼男が有名だよな。

 普段は人間の姿だけど満月の夜になると狼の姿になるというあれだ。

 方向性としてはそういうものに近いのかもしれない。

 ただし、この世界では人間の姿でも耳や尻尾が出ていると。

……
うん、わかった。〈門〉までは安全なんだね。

この先は〈門〉まで安全みたいだから急いで移動しようか

その〈門〉っていうのが転移できるやつなのかな
うん。改めて言っておくけど誰にも言ったらダメだからね。

これは私たちだけしか使えないものだから

わかった。

僕は何も見ないし、何も聞かないし、何も言わないよ

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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