第28話3

文字数 786文字

澪。審判を頼む。

相手の態勢を崩して有効打が与えられたところで勝負あり。三回勝負で二回勝った方を勝者とする。

それでお願いする

わかりました。

アワブチ・ミオが審判を務めさせていただきます

ふん。

戦なら最初の勝負ですべてが決まるのを知らんのか。莫迦め!

 馬鹿はお前だ。
いつまた敵が攻めてくるかわからないから攻撃は寸止めするよ。

こんなことで壊れて戦えなくなったら困るからね

な……っ

 やっと気が付いたのか。

 それはさすがに頭に血が上りすぎでございましょう?


 ある程度の距離を取って立ち会う。

それでは――はじめ!

 相手はどう動くかなと思うより前に突進してきた。

 本当に猪じゃないだろうな。

 全高が五メートルにもなる機巧武者が走れば地面も揺れる。

 迫力だってかなりのものだ。トラックが迫ってくるのとはわけが違う。


 深藍が右手を引いて拳を握る。

 素人丸出しの完全なテレフォンパンチだ。

 上体を下げ、ダッキングで拳をかい潜って前に出る。

 素早く背後を取ってがっちりと首を決める。

 こうなっては文字通り手も足も出ない。

 何しろ鎧を纏っているのだ。手足の自由度は低い。

勝負あり!

 澪の宣言に僕は首に回していた手を離して距離を取る。

くっ、今のはこれから反撃するところだったんだ!
 情けないことを口にすると男を下げるぞ、梅園君。
今のは勝負ありでしょう。

あそこから拘束を解くのは無理でしょうからね

 意外な人の声に全員がそちらを見た。
ヒロハタ館長……
大きな音がしてきましたからね。気になって出てきてみたわけです。

さっそく模擬戦とは感心感心。私も間近で拝見させていただきます。

ウメゾノさん、フブキ殿に胸を借りるつもりで挑みなさい

い、いや、俺は……その……
三回勝負なのでしょう。

負けるのは大いに結構。負けて得られることもあるのですから

 館長のお墨付きをいただいているのなら問題はない。

 改めて距離を取って立つ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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