第27話1 他に行ってないところといったら

文字数 931文字

他に行ってないところといったら……調律師のカヤブキ様のところに顔を見せておくぐらいかな
 ああ、あの仮面の人か。
でもしばらくは行かない方がいいと思うぜ。

なにしろ機巧姫の修理で忙しいだろうからさ

それもそうね。

私の水縹にソウゲン様の青藤の君も直していただかないといけないし。

むしろカヤブキ様の体調の方が心配よね

なんだ、姉貴は調律師の兄ちゃんにほの字なのか? 

あんまり強そうには見えないから、やめておいた方がいいと俺は思うぜ!

 ほの字なんて本当に言うんだと感心していたら、澪の顔色が面白いことになっていた。
ちょ、そそそそんなことないんだからねっ
 なんてわかりやすいんだ。耳まで赤くしてるじゃないか。
だ、だから違うんだってば! キヨマサ君も訳知り顔して私を見ないで! 

違うの! 違うんだって! 

ただカヤブキ様を見ていると、どこか懐かしいっていうか、頼りがいがあるなぁって思ってただけなんだからねっ

 あー、これで普段はツンツンしてたら見事なまでのツンデレなのになあ。

 澪は冷たい態度なんて基本的にとらないから、ツンデレカテゴリーに入らないのが残念だ。

なるほど。

大平さんの言うことに僕も賛成だな

なあ、兄貴。

俺のことはフドウって呼んでくれよ。その方がカッコいいだろ?

……不動の言うことに賛成だな

 言い直すと、嬉しそうに不動が笑った。

 こいつ、かわいいな。いや、僕に男色の趣味はないけども。

オオヒラ様の――
姉貴もフドウって呼んでくれ!
えっと、フドウ様の――
フドウって呼んでくれ!
……フドウの言うことって?
 澪の根負けだった。
機巧姫を修理している茅葺さんの邪魔はしない方がいいだろうってこと。

この先のことを考えるとさ

この先?
霧峰国にしろ白相国にしろ、あれで終わりってわけじゃないと思うんだ。

数年ぶりに攻め込んできたってことは何かの目的があったわけだ。戦力を増やして戦う準備が整っただとか、何か欲しいものがあって関谷を攻めようとしているのか、そこまではわからない。

でも前回の戦いでそれを達成したとは思えないだろ。

だから機会を伺ってまた攻めてくると思うんだよ

やっぱり来るのかしら
来るよ。間違いなく
 そうでなければ収支はマイナスだ。成果を上げる必要がある。だから再侵攻は必ず起こるだろう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色