第35話1 湯船があるこの部屋は狭くて窓がない

文字数 782文字

 湯船があるこの部屋は狭くて窓がない。

 だから光源と言えるのは石榴口ぐらいなもので非常に暗かった。隣にいる人の顔がうっすらわかるぐらいだ。


 屈まないと入れないようになっているのは湯船のお湯を冷めにくくするのと温まった蒸気を逃がさないようにするためなのだそうだ。

 おかげで澪と湯船に並んで入っていても冷静でいられる。

 これならテレビ放送時には仕事熱心な湯気も落ち着いていられるだろう。

キヨマサ君のところにも銭湯ってあったの?
あったけど、こことはかなり違うね。男女別だったし
そうなんだ。

男女をわけるところもあるって聞くけど、薪がもったいないからほとんどが混浴なのよね

今の時間は女の人が多いみたいだね
夕方前だからね。

男の子はちょっと肩身が狭い感じ?

そうだね。ちょっとだけ

 本心を言えば肩身が狭いどころの話じゃないんですけどね。

 冷静になって思い返してみれば、洗い場にいた人たちってほとんど女の人だったもんな。男の人たちは隅の方に追いやられていたように思う。

澪は銭湯によく来るの?
澪は銭湯によく来るの?
最近はそうでもないかな。操心館ができてからはあっちで入るようにしてるし。

だってお金がかからないもんね。

入浴料は安いとはいえ、お金は無駄にできないし

 安くて品揃えがいいお店もよく知っているし、経済観念がしっかりしている。無駄遣いはしないに越したことはないもんな。
そういえば葵はどうしてるの?
この銭湯は女性も二階に行けるからそこに行ってもらったよ。

機巧姫が銭湯に来ることなんてないから、みんな驚いているんじゃないかな。

でも葵の君だと機巧姫だって気が付かれないかもね。

あは、さすがに髪の色でわかるかな

 そういえば江戸時代の銭湯には二階があって、そこは男性のみが入れる社交場のような場所になっていたという資料を目にしたことがある。

 せっかくだし、お風呂を出たら行ってみようかな。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色