第47話4

文字数 784文字

こちらで機巧姫を買い求めることはできないのでしょうか
人形雛と違って機巧姫は扱いが難しいのです。

そもそもが高価なものですし

 だから購入者はごく限られる。

 よほど裕福な商家か武家か。

 そんな貴重なものだから売買が成立すれば瞬く間に市場関係者の耳に入るそうだ。

それに無断で国から持ち出すことは許されていないものですから、私の店では素性のしっかりした方にしかお売りしません。

よそ様はそうではないと聞きますがね

 操心館に所属していることは素性の保証にならないのだろうか。

 ある意味、これほど素性のはっきりした立場の人間も少ないと思うんだけど。

最近、よそでいくつか取引があったらしいのですが……

 声を潜めながら教えてくれた。

 高価な機巧姫を求めるってことは、藤川様か井田様あたりではなかろうか。

 お城で会ったあの二人の顔が目に浮かぶ。

 楽しそうに人形談義をしてたもんなあ。

おっと、申し訳ありません。少し失礼いたします
 新たに入ってきたお客さんに気が付いた宇頭さんが接客に向かう。
あれは……

 入口付近に人目を避けるように背中を丸めた人物がいる。

 土気色の顔をしていて、なんだかひどく疲れているようだ。

 その人は挨拶もほどほどに宇頭さんに用件を切り出した。

……赤でもなく青でもなく緑でもない。一番いいのを頼む

 それを聞いた宇頭さんは確認するかのように二言三言、小声で交わす。

 血走った目をしたお客さんは苛立たしげな表情をしていた。

 あの人、どこかで見たような気がするんだけど、どこで見かけたんだろう。

翠寿。あの人に見覚えある?
くんくん……はい。きれーな石のお店のひとです

 あ、そうか。永寶屋の中伊喜正さんだ。

 それからもう一つわかったこと。翠寿は人狼だから鼻も効くんだな。

随分とやつれてるね。

どこか具合が悪いのかな

 つい先日会ったばかりだというのに、十は年をとってしまったかのようだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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