第58話2
文字数 822文字
何もないところで不動が転ぶ。
いや、何かはあった。
不動の足に木の根が絡まっている。
再び日影が不動へ向けて札をかざすと地面がうねり、地中からいくつもの太い木の根が飛び出す。
根は転がったままの不動を絡めとってしまった。
絡みついた根が弾ける。
しかし次から次へと根が伸びて束縛から抜け出せない。
考えてもみてくださいや。〈護法円〉の中にいる限り人狼のお嬢ちゃんは誰よりも安全だし、鬼の兄ちゃんも暴れなければ命を取るつもりはありやせん。ここはお互いに冷静になりましょうや
言いながら一体の機巧姫を肩に、もう一体を脇に抱えジリジリと後退する。
剣印は不動を差したままだ。
関谷産の機巧姫は出来がいい。こんな上物はそうそう手に入るものじゃありやせん。
最後は思わぬ手間がかかりましたが一度に二体も手に入れられたんですからよしとします。
おっと、このままお別れしましょうや。無駄な血を流す必要もねェでしょう
日影のあの仕草がブラフでなければ集中を乱すことで不動は自由を取り戻せるかもしれない。
でも仮にそれが上手くいったとしても次の手が読めない。
今度は命の危険がある術を使われることもある以上、下手に手を出せなかった。