第34話1 おっ、雨か

文字数 716文字

おっ、雨か。

早速こいつの出番だな

 ウキウキ気分で先ほど買った番傘を風呂敷から出す。

 柄は竹製で傘の部分には防水処理された和紙が張られている。骨の数がかなり多いぐらいで形状は今の傘と

おっと、ごめんよ
……あっ
 目の前の駆け抜けていく人が跳ね上げた水を頭から被る。
あらら。これは水も滴るいい男だねぇ
大丈夫ですか、主様
……お風呂に入りたい
 泥水を手で拭う。ひどい目に遭った。
いいわね。

行きましょうか

銭湯でもあるの?
うん。

手ぬぐいは番台で買えるから手ぶらでも大丈夫だよ

 江戸時代の銭湯は混浴だったこともある。この世界でも同じだとしたら冷静にいられる自信はない。挙動不審で摘み出されたりしないだろうか。

 そんな不安を胸に澪の後を小走りでついていった。

へー、これがこっちの銭湯かあ

 二階建ての立派な建物だ。

 大きな煙突の先からは鉛色をした空へ向けて白い煙が上っていた。

 銭湯の入口には大きな暖簾が二つかかっていて男湯と女湯に分かれている。それを見て、ほっとしたのは内緒だ。

じゃあ、私たちはこっちだから
ちょっと待って。

葵はどうするの?

 操心館で僕がお風呂に入ったときも外で待っていた。さすがにここで一人立たせて待ってもらうのは申し訳ない。
大丈夫。中で時間を潰すことだってできるし。お風呂に入るだけが銭湯じゃないんだから。

じゃあ、またあとで

 ひらりと手を振って澪は葵を伴って暖簾をくぐってしまう。

 あの、この世界の銭湯の作法とか何も聞いてないんですけど!

お兄ちゃん、入らないのかい
あ、すみません。

入ります

 男湯の暖簾を入ってすぐに土間があるのでそこで荷物と履物、腰に差していた小太刀を預ける。引き換えに札をもらった。出る時はこれを見せればいいらしい。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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