第56話4

文字数 749文字

 目が覚める。まだ外は真っ暗だった。

 生い茂る木々に遮られて朝日を拝むことはもうしばらくできそうにない。

 冷え込みに体をこすって体温を上げる。

 軋む体をほぐしていると、物音に気が付いたのか中伊さんも目を覚ました。

い、いかん。

寝過ごした!

 中伊さんの追い詰められた表情を見てしまうと、まだ暗いので出発するのは危ないのではないかという言葉を飲み込まざるを得ない。
今から出れば昼過ぎには村にたどり着けるはずだ。

急いでくれ

 まだ寝ている不動を揺すって起こす。
う、うう~ん……
 無言のまま出発の支度を整えた。
では行こう

 深い朝靄で視界もろくに効かない中を出発する。

 昨日と同じく中伊さんが先頭だ。誰も一言も口を利かずに山道を歩き続ける。汗と霧で服は濡れて重くなっていた。

 何度となく足元をとられて転びそうになる中伊さんの背中が徐々にはっきりと見えるようになる。

 顔を上げると太い木の間からキラキラと輝く光のカーテンが垂れ下がっていた。周囲が明るくなったおかげで幾分歩きやすく感じる。

(兄貴。後ろから誰かついてきてるぞ)
 最後尾を行く不動の囁き声だ。返事をする代わりに荷物を背負い直す。
村が見えた!

 視線の先が少し開けた。

 そういえば足元も歩きやすくなっている。何度も人が通って踏み固められたのだろう。


 あちらこちらに人が住んでいた跡が見える。

 狭いながらも土地が均され、作物が植えられるのを待っている。

 だが、この村でその作業をする人はいない。

ふぅふぅ。このあたりに炭焼き小屋があるはずなんだが……
炭焼き小屋ってことは村から少し離れた場所にあるんじゃないですかね。

荷物を下ろして探してきましょうか

そうだな。

そうしてもらおう……うん?

 青空に細く上る白い煙があった。
あそこだ! 

あそこに炭焼き小屋があるはずだ!

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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