第56話1 ガラガラと車輪が音を立てる。

文字数 651文字

 ガラガラと車輪が音を立てる。

 町人姿をした不動が荷車を引き、同じ格好の僕は後ろから押している。

 荷車には二つの大きな桶が乗せられ、滑り落ちないように縄でしっかりと括られている。

 その桶は時代劇で見る遺体が納められた座棺とまるっきり同じだ。なんと不吉な。


ごめんください。

ご注文いただいたお品をお届けに参りました

 扉が細く開かれる。

 隙間から血走った目がこちらを伺っている。

中伊様ですね。

津島屋から荷物をお届けに参りました

お、おお。そうか

 以前に比べると一回り小さくなってしまったみたいだ。

 肌の張りがなく、心なしか白髪が増えているようにも見える。

悪いが、中の品を見せてもらってもいいかね
もちろんです
 ひょいと荷台に上がり桶の蓋を外して中を見せる。もう一つの桶も開けて見せた。
うん、確かに注文したものだ
荷物はこちらに降ろせばいいでしょうか
いや。荷車に乗せたままにしておいてもらえるかい。これから別の場所まで運んでもらいたいのだが。

ああ、運び賃は別で出すよ。どうだい

構いませんとも。

場所はどちらでしょうか

北にある三桜村だ。

私も一緒に行くから荷車は任せてもいいかね

わかりました。

出発は今すぐですか

ああ。

ちょっと待っていてくれ。私も支度をしてくる

 そう言い残すと扉が閉められた。

 しばらくすると中伊さんが姿を見せる。

 スゲで編んだ笠をかぶり、上着の上に引き回し合羽を羽織っていた。肩に振分け荷物をぶら下げ、手には手甲、下は尻からげて股引をはき、足元は脚絆を付けた旅装姿だった。

じゃあ、行こうか。

荷は任せたよ

はい
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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