第56話1 ガラガラと車輪が音を立てる。
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ガラガラと車輪が音を立てる。
町人姿をした不動が荷車を引き、同じ格好の僕は後ろから押している。
荷車には二つの大きな桶が乗せられ、滑り落ちないように縄でしっかりと括られている。
その桶は時代劇で見る遺体が納められた座棺とまるっきり同じだ。なんと不吉な。
扉が細く開かれる。
隙間から血走った目がこちらを伺っている。
以前に比べると一回り小さくなってしまったみたいだ。
肌の張りがなく、心なしか白髪が増えているようにも見える。
そう言い残すと扉が閉められた。
しばらくすると中伊さんが姿を見せる。
スゲで編んだ笠をかぶり、上着の上に引き回し合羽を羽織っていた。肩に振分け荷物をぶら下げ、手には手甲、下は尻からげて股引をはき、足元は脚絆を付けた旅装姿だった。