第24話1 操心館に併設されている食堂へとやってきた

文字数 967文字

 操心館に併設されている食堂へとやってきた。

 集団で活動をしているのだから敷地内で食事をとれるようにするのは社員食堂の考え方と同じだ。時間やコスト削減という側面もあるのだろう。

 だが、それも関係者が利用していればの話だ。

……誰もいないんだな

 長机と椅子が並んでいるだけで、僕たち以外に利用者はいなかった。

 物悲しい。閑古鳥が鳴いている。


 席についてしばらくすると、お膳に乗った朝食がやってきた。

 配膳をしてくれたのはおばちゃんだ。残念ながらメイド服ではないし割烹着でもない。


 お茶碗には赤みがかったお米がもられ、味噌汁と焼き魚。小皿には漬物が数切れのせられている。

 お米が赤いのは赤飯ではなく雑穀米だからだろう。

 お米以外にも色とりどりなものが入っている。白米よりもミネラルとかも摂取できて健康にいいんだっけ。

じゃあ、いただきます
 手を合わせて、ありがたくいただく。
……ガリ

 おおう。

 このご飯、芯が残ってないですかね。すごく、硬いです。

ずず……ぐふっ
 めっちゃ薄いんですけど。色のついたただのお湯だ。きっと出汁を取ってない。
ボリボリ……

 魚の切り身を焼いてあるんだけど、裏側が真っ黒になってるじゃないですか。


 お城で食べた食事とは雲泥の差だった。

 もちろん、あそこは国王様が生活している場所で、この国でも一番の食材、一番の腕を持つ料理人がいても不思議じゃない。だからこそのあのクオリティと言われれば納得できる。

 だが、しかし。

 いくらなんでもここの食事と差がありすぎませんか。


 食事に贅沢は言わない方だけど、これはちょっと辛い。

 誰も食堂にいないはずだ。

 この朝食では一日が憂鬱になること間違いない。

あ、それで翠寿は一緒の食事を嫌がったのか……

 わかってしまった。

 たしかに、これなら食べない方がましだ。


 しかし、目の前に座る澪は気にせずに食べている。

 一月程度なら牛丼が続いても平気な僕でも、これは無理だ。

 今思えば牛丼って恵まれていたんだな。懐かしい。

 この世界でも食材さえ用意できれば再現は可能だと思うんだけど。

ごちそうさまでした
ごちそう……さま、でした……
どうしたの、顔をしかめちゃって
……澪は平気なの?

 なにが?と言いたげな顔をして僕を見ている。

 澪は食事に頓着しないのかなあ。さすがにこれはちょっとどうかと思うんだけど。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色