第26話3

文字数 933文字

ところで、他に見ておく場所ってあるの?
うーん、あとは怪我や病気をしたときにお世話になる施療所(せりょうじょ)とか、武具をしまっておく蔵あたりかな
怪我した場合は姉貴にお願いしたらすぐに治してもらえるじゃないか
それはそうなんだけどね
そうだ、厩舎には行ったのか? 

馬がいただろ、馬!

 なんでそんなに大平さんが興奮しているのか理由がわからないんですけど。
ここに来る前に寄ってきたよ。

立派な馬が何頭もいたね

そりゃな。

なにしろ国王様に献上された馬が優先的に来てるって話だからさ。

姉貴の領地から献上された馬もいるんだろ

 澪の領地は国王様に献上するような良質な馬を育ててるのか。

 ちなみに厩舎につながれていた馬はサラブレッドみたいな大型で足の細いタイプではなく、木曽馬のような中型でガッチリした体躯だった。速度よりも力強さ、足腰の強さが要求されているのだろう。


 そういえば献上する馬を一番いいやつにしちゃうとジリ貧になるんだよね。もしも一番いい馬ばかりを献上しているのだとしたら教えた方がいいのかも。

でもさ、機巧武者になったら馬には乗れないよね。

どうして馬術も練習しないといけないんだろう

 へ?と言いたげに澪と大平が顔を見合わせていた。
そりゃ(さむらい)だからだろ。

侍っていったら馬に乗れなきゃ話にならないからさ

 なるほど、そういう理由か。

 もともと侍っていうのは「騎馬戦闘を許された武士」だもんな。


 江戸時代だと藩によっては藩士を大きく三つに分類していて、それが侍、徒士(かち)、足軽になる。

 このうち侍と徒士が士分(しぶん)とされて正式な武士のことをいう。

 戦場で一番多い兵卒である足軽は士分に該当しない。ここには明確な線引きが存在する。


 その士分のうち騎乗を許される上級武士のことを侍といって区別した。

 現実の日本との違いはあるだろうけど、簡単に言ってしまえば侍は戦士として超エリートなわけだ。

 武芸百般を磨き、馬に乗ることが許された人たち。


 そしてこの世界では機巧武者になれる機巧操士は侍を超えた超々エリートという扱いなのだろう。

 侍ができることならば機巧操士はできて当然。だから馬にも乗れる。当たり前というわけだ。


 ……僕は馬になんて乗ったことありませんけどね?

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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