第20話3

文字数 710文字

 改めて御膳を見る。

 中央に白飯の入ったお椀。右には具材の入っていない汁椀があり、左には薬味などの入った小皿がある。

 これはお茶漬けのようなものなのだろうか。


 織田信長も湯漬けが好きだったという。

 あの時代は火をおこすにも手間がかかるから温かい料理を出すのは難しかった。だから簡単に沸くお湯を利用して温かい食事を食べていたらしい。


 薬味を白飯の上にまぶし、汁をかけいれる。

 ほかほかと湯気が立ち、いい匂いが鼻腔をくすぐる。

 箸をもって食べようとお椀を手に取ったときだった。

……おおっ

 白飯が汁でほぐれて、その下から肉や魚、色とりどりの野菜類、小さなサイコロ状に切ってあるのは豆腐だろうか。いろいろなものが汁に溶け出してきた。

 これは手が込んでいる。

 藤川国王のセリフはこの驚きのための演出だったのか。

カカカ。どうだ、驚いたか?
すまぬな、フブキ殿。

父上はこうやって気に入った人を驚かすのが好きなのだ。

食べ物で遊ぶようなことはよくないといつも御諫めするのだが、なかなか話を聞き入れてもらえなくてな

失礼なことを言うな、シライト。

儂は飯で遊んでなどいないぞ。飯は旨くなければいかん。見た目も美しくあるべきだ。

その上で驚きがあればさらに旨く感じよう。

もっとも、気に入った者を驚かすのが好きなのは否定せんがな

……余計に性質が悪いですよ、父上
フン。

どうだ、フブキよ。旨かろう?

はい、とても。

この趣向も目を楽しませてくれています

 ちょっと濃いめだが悪くない。というか素直に旨い。

 味付けから判断するに醤油や味噌もこの世界にはあるのだろう。食べ慣れた日本の食事とほぼ変わらなかった。

 食事の合う合わないは活力に直結するだけに嬉しい展開だ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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