第18話2

文字数 888文字

それで、この国で人形師として生計を立てている者の数はどうなのだ
はっ。元よりこの関谷は良質の木材がとれ、さらに勾玉を入手しやすい土地。

そこで新人形である人形雛が次々に作りだされていると知れば、人形師として名を成したい者は居ても立ってもいられぬでしょう。続々と移り住んできているようです

思惑通りだな
はい。人形雛を関谷の新たな名産品にするという狙いは見事に当たりましたな
基本的に国外への持ち出しを禁止している機巧姫に代わり廉価な人形雛を作って売り、我が国は金を得る。

その金で田畑を広げ、作物を育て、人を増やす。

そうだな、フクオカ

仰せのとおりにございます

 ああ、なるほど。

 藤川国王がしようとしていることは織田信長が茶器でしていたことだな。


 以前までは戦で活躍した人に恩賞として知行を与えて応えていた。

 しかし領土は限られているから与え続けることはできない。けれど褒美がなければ家臣の不満は溜まっていく。そこで信長は新しい恩賞システムを考えた。それが茶道と茶器だ。

 まず茶道というものは素晴らしいのだと宣伝をする。そこで使われる茶器もまた価値があるものにしてしまう。つまりは権威づけだ。これが一般に広まれば、茶道で使われる茶器もありがたがるようになる。

 なんと戦国時代では一国の領土をもらうより茶器がもらえなくてがっかりしたなんてエピソードが残っているぐらいだ。


 この世界ではもともと機巧姫という価値ある存在がいる。

 彼女たちは人形として優れているだけでなく、機巧武者という戦力でもある。

 それが国外に持ち出されれば自国の戦力が失われ、他国の戦力が増強されてしまう。

 そこで関谷では新しい人形を作るようになった。それがこれまでの会話に出てきた人形雛だろう。

 それに価値があるのだと世間が認めてしまえば、生産国である関谷にはお金がどんどん入ってくるというわけだ。


 実に理にかなっている政策だと思う。

 っていうか、こういうのって異世界に転生してきた主人公が提案、実行して、周囲からすげーとか言われるのが定番なんじゃないですかね?

 僕がアイディアを出す前に形になりかけているんですけど……。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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