第48話4

文字数 779文字

そもそも、ほの香姫のお気持ちはいかがなのでしょう
本人から相談されたことがある。お国のためにできることをしたいとな。

これは内密にしておいて欲しいのだが――

 顔を寄せるように指示される。

 鼻息がかかる距離まで近づくと白糸様はそっと囁いた。

ホノカは天色の君の連れ合いなのだ
……マヂですか
まぢ? 

あ、ああ。本当のことだ

 それが事実なら喜ばしい。

 機巧武者が増えるのは関谷の戦力が増強されるということなのだから。

 彼女が戦えるかというのは置いておくとして。

そのことを知った時、私は悔しかった。

私は選ばれなかったのに、何故、妹が選ばれるのだと神仏に呪いの言葉をぶつけたくなった

それが人形屋へ行こうと思った本当の動機ですか


だがここへ来てわかってしまった。

私も父上の血を引いている。機巧操士になりたくて来たというのに、純粋に人形に心惹かれてしまうのだ。こうして並ぶ人形を見ていると自分の部屋に飾りたくなってしまうのだ

 あー、それは間違いなく血ですね。不治の病かと思われます。
もちろん国として機巧操士が増えるのは喜ばしい。戦える者を遊ばせておけるほど関谷に余裕はないからな。

しかし、ホノカは戦い方も知らぬ女子だ。ただ戦場に出せば死ぬだろう。

だからせめて戦い方を学ばせてやりたい。そのために操心館へ行かせてやりたいのだ

 肉親を思う気持ちが痛いほど伝わってくる。

 しかし本人の望みはどうなのだろうか。

白糸様のお気持ちはわかりました。

ですが、ほの香姫のお気持ちを確認する必要があると思います。もしかしたら機巧操士になりたくないと思っているかもしれませんよ

それはないと思う。

私に天色とのことを話した時のあいつの目は輝いていた。城から出られるかもしれないと喜んでいた。

あいつは外へ出たいのだ。小鳥のように城で飼われ、どこかの家へ嫁いでいくのではなく、自分の望む形で生きていきたいのだろう

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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