第64話3

文字数 738文字

すまない、兄貴。

ナカイさんを安全な場所に移して戻った時には誰もいなかったんだ

あたしとコウおねーちゃんもヘトヘトで気がつかなくて……ごめんなさい
……
 三人が僕に頭を下げている。
気にしないで。

不動は事前の打ち合わせ通り中伊さんの無事を最優先したんだし、紅寿と翠寿は鶯色の機巧武を足止めして貴重な時間を稼いでくれたんだ。こっちの方がお礼を言わないといけないぐらいだよ

 それぞれが必要な行動をとった結果のことなんだから誰も責められない。

 むしろ事前に決めておいた優先事項をすべてクリアできたのだから誇るべき結果だ。

不動の話しぶりだと紅樺の君はその場に残されていたってことなのかな
ああ。ボロボロで連れていく価値がないと判断したのか、自分が逃げるので精一杯だったのかまではわからないけどな
その紅樺の君を不動が引き取りたいわけか。

鶯色は岩戸と一緒に底なし沼へ沈んでいったんだけど、あっちはどう?

あれを引っ張り出すのは無理だと思うな。

下手をすれば自分たちが沼にハマって抜け出せなくなるだろうし

 それなら諦めるしかない。

 いつかどこかで別の鶯色の君に出会えるのに期待しよう。

そういえば紀美野さんを監禁していた奴から何か聞き出せた?
ああ。

初見の機巧姫と連れ合いになる方法とかな

 マジか!

 それはかなり重要な情報だぞ。不動が紅樺の君を求めたのも納得だ。

宿曜の奴の左手が残っててさ。

そいつが身に着けていたものなんだけど

 不動が懐から取り出したのは数珠のような形をしていた。

 たくさんの石が糸で繋がれている。ただし珠の色は多種多様でかなり派手だ。

なんでもこれを持っていると機巧姫と連れ合いになれるんだってさ。

こいつを使えば俺もきっと……きっと!

 顔が紅潮している。

 事実ならその興奮もわからなくはない。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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