第2話1 ビィンと弦が鳴る
文字数 706文字
澪の隣に並ぶ濃く暗い黒に近い青色をした
糸を引くように敵の機巧武者に矢が吸い込まれた。
腹の底から声を絞り出した景虎の声に魂が奮い立つ。
怖いなどとは言っていられない。
澪たちの背後には守るべき幾千の民がいるのだから。
強い力を持つ水蛟は天候すら操るという。
そしてこの戦いが始まる数時間前から激しい雨が降り始めた。
突然崩れた天気にうろたえる敵方に対し、関谷の兵は周到に準備を整えていた。雨が移動中の音を消してくれる。視界を悪くしてくれる。
今は雨脚が弱くなり霧雨になっていたが、すでに足元はすっかりぬかるんでいる。
弓を射るときは足元に気を付ける必要はあるが、今のところはその程度で澪たちの戦闘行動に大きな支障は出ていない。
一方、敵がいる丘の麓は足場がかなり悪くなっていた。
雨水が集まり流れを作り、この丘への道を遮る形で川のようになっている。
その泥川を渡り切らなければ澪たちのいる陣にはたどり着けない状況だ。
当然、渡河中は水流に足を取られて思うように動けないので弓で狙いやすい。
数を頼みに一気に押しつぶそうという相手の策を見切り、それと気が付かれないように誘導し、この場に陣を敷くことをできたが故の状況である。