第0話1 不吹清正はゲームクリエイターである
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改造人間ではないし、世界制覇を企んでもいないし、秘密結社で働いてもいない。そして人間の自由のために戦う予定もない。
もっとも、ゲームの中では改造人間どころか提督になったり、隊長になったり、司令官になったりするし、侵略者を撃退したり、悪の野望を阻止したり、ハーレムを作るために女の子を集めることに勤しんだり、そのためには銃や剣や魔法なんかで戦うのは日常茶飯事だ。
それはさておき。
一言にゲームクリエイターといってもいろいろな職種があるが、僕の肩書きはプランナー兼ディレクターである。
ゲームの企画を考え、仕様や方向性を決め、ゲームを完成させる人だと思ってもらえばいい。
アシスタントディレクターとして二本、メインディレクターとして二本やらせてもらった。
今やっているのが三本目だ。幸い好スタートを切らせてもらっている。
高校時代にアルバイトのデバッガーから始めて業界歴は十年になる。
二十六歳にしてはそこそこ長いと言えるかもしれない。
この業界では「会社に就職したのではない。ゲーム業界に就職したのだ」なんて言う人もいる。
毎年のように所属する会社は変わるけど、やっていることはずっとゲーム関係の仕事ばかり。
だから「一つの会社に就職したのではなく、ゲーム業界に就職したのだ」と
まあ、そんな考え方も悪くはないかなと思う。
もともとゲーム開発に興味があったし、ゲームで遊ぶのも好きだ。毎月一万円まではゲームに課金をしていいという自分縛りで楽しんでいる。
ただゲーム業界に入ると、どうしても視点がクリエイター寄りになってしまう。
だから純粋にプレイヤーとしてゲームを楽しむことは難しい。
そういう事情もあるので、妹に市場調査のアルバイトを個人的に依頼している。毎月一万円までの課金を肩代わりするのがアルバイト代だ。
純粋なプレイヤーである妹からの意見はゲームクリエイターになってしまった僕からするとなかなか貴重で、いつも参考にさせてもらっている。
今の僕の仕事や生活環境はかなり恵まれていると思う。
仕事仲間も気のいい人が多いし、お金もそれなりにもらえている。
もう少し休みが欲しいとは思うけど、それは贅沢な話なのかもしれない。
服のセンスはあんまりないけど清潔感はあるし、いろんなこと知ってるし、顔もそんなに悪くないし、話だって面白いのに
そんないらぬ世話を焼いてくれる妹と二人暮らしをしている。
十年前に両親は交通事故で亡くなった。
二人で十年生きてきた。
大変なこともあったけど、なんとか無事にやっている。
きっと妹がいてくれたおかげだ。僕一人では途中で人生を投げ出していた。
僕には一つ決めていることがある。
お兄ちゃんは妹が結婚するまで仕事一筋に生きるのだ。
脇目も振らず働いて、これまで他人より苦労をしてきた妹が幸せな生活をできるように妹のための結婚資金を貯めるのだ。
そんな密かな僕の決意を、おそらく妹は知っている。
そんなことを訳知り顔で言われたりするけど、悔しくなんかない。
本当だ。悔しくなんてないんだからねっ。