第58話3
文字数 645文字
このまま日影の撤退を見送れば全員の命は無事かもしれない。
他国に機巧姫が持ち出されてしまうことに目をつむればベターな結果だと言える。
もし僕が機巧武者になれば状況をひっくり返すことは可能だ。
何しろ日影が抱えている機巧姫に連れ合いはいない。
機巧武者に抵抗できるのは機巧武者だけだから、彼らを倒し、連れ去られようとしている機巧姫を取り戻すことだって容易だ。
でもだからこそ、それはできない。
彼らもそれがわかっているから僕と葵の位置関係を調整している。
葵が岩戸と対峙している時点で向こうの思惑通りに事が進んでいるのだと考えるべきだ。
ビュンビュンと風を切る音。
頭上に掲げた三メートルはある槍を岩戸が振り回す。
葵は距離を取るがその動きを妨げずに岩戸は槍を振り回し続ける。
槍を回転させながら歩を進める。
葵が更に下がった。
これはチャンスだ。
葵と接触できれば機巧武者になれる。