第58話3

文字数 645文字

いくら鬼が怪力だからってその根を簡単に引き千切ることはできないでしょうよ。

事を荒立てるつもりはねェんです。もうしばらく大人しくしていてくだせェ

 このまま日影の撤退を見送れば全員の命は無事かもしれない。

 他国に機巧姫が持ち出されてしまうことに目をつむればベターな結果だと言える。


 もし僕が機巧武者になれば状況をひっくり返すことは可能だ。

 何しろ日影が抱えている機巧姫に連れ合いはいない。

 機巧武者に抵抗できるのは機巧武者だけだから、彼らを倒し、連れ去られようとしている機巧姫を取り戻すことだって容易だ。


 でもだからこそ、それはできない。

 彼らもそれがわかっているから僕と葵の位置関係を調整している。

 葵が岩戸と対峙している時点で向こうの思惑通りに事が進んでいるのだと考えるべきだ。

それではつまらん

 ビュンビュンと風を切る音。

 頭上に掲げた三メートルはある槍を岩戸が振り回す。

 葵は距離を取るがその動きを妨げずに岩戸は槍を振り回し続ける。

全員始末する。

そう言ったはずだ

 槍を回転させながら歩を進める。

 葵が更に下がった。

 これはチャンスだ。

 葵と接触できれば機巧武者になれる。

一斉にかかってきても構わんぞ。

ああ、それがいい。それなら俺も本気を出せるというものだ。

ヒカゲ、人狼と鬼も解放しろ

そんなことできるはずがねェでしょ。

あと、そいつらを引き離しておいてくださいや。機巧武者を相手になんてしたくありやせんぜ

それも面白いな。

いっそのことやらせてみるか

だからやめてくれと言っているじゃァないですかい
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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