第56話2
文字数 571文字
城下町へ至る大きな道は多くの人が行き来することもあり、小石をまいた上にしっかりと踏み固められているので荷車での移動もしやすくなっている。
明科川を渡ってから三桜村へ続く山道の状況は大きく異なる。
道は狭く、木の根が張り出していたり、巨大な石が埋まっていたりしていて普通に歩くのにも苦労する。
そもそも川を渡る時に荷車は対岸に置いてきてしまったから、僕と不動は大きな桶を一つずつ背負って獣道のような所を歩いていかなければならない。
不動は鬼だから力があるのは当然として、僕もこの世界へ転移した際に身体能力が大幅に向上しているからできる芸当だ。
そうでなければ持ち上げられるかどうか怪しいところだろう。
先頭の中伊さんは歩く速度を速めた。僕たちはその背中を追いかける。
前のめりな中伊さんはこちらに気を使う余裕もないようで、せかせかと足を進める。
一刻でも早く目的の場所へたどり着き、モノを渡して紀美野さんを連れ帰る。そのことしか頭にないのだろう。
すれ違うのすら困難な細い道を無言でただ進んでいく。
時には岩にへばりついて渡された縄を掴みながら進まなければならない場所まであった。