第56話2

文字数 571文字

 城下町へ至る大きな道は多くの人が行き来することもあり、小石をまいた上にしっかりと踏み固められているので荷車での移動もしやすくなっている。


 明科川を渡ってから三桜村へ続く山道の状況は大きく異なる。

 道は狭く、木の根が張り出していたり、巨大な石が埋まっていたりしていて普通に歩くのにも苦労する。

 そもそも川を渡る時に荷車は対岸に置いてきてしまったから、僕と不動は大きな桶を一つずつ背負って獣道のような所を歩いていかなければならない。

二人とも小柄なのに力があるんだね

 不動は鬼だから力があるのは当然として、僕もこの世界へ転移した際に身体能力が大幅に向上しているからできる芸当だ。

 そうでなければ持ち上げられるかどうか怪しいところだろう。

少し急ぎたいんだが大丈夫かね
お任せください。

二人とも体力には自信がありますから

そうか。では急ごう。

山の天気は変わりやすいというしね

 先頭の中伊さんは歩く速度を速めた。僕たちはその背中を追いかける。

 前のめりな中伊さんはこちらに気を使う余裕もないようで、せかせかと足を進める。

 一刻でも早く目的の場所へたどり着き、モノを渡して紀美野さんを連れ帰る。そのことしか頭にないのだろう。


 すれ違うのすら困難な細い道を無言でただ進んでいく。

 時には岩にへばりついて渡された縄を掴みながら進まなければならない場所まであった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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