第11話3
文字数 1,130文字
僕は犬が好きだ。
人間に忠実な友である彼らは尊敬すべき存在だ。高じて犬耳娘も大好きになった。だってかわいいからな!
だから僕は自分が担当したゲームに犬耳をしたキャラを隙あらば登場させてきた。
発注担当者の権限だ。エロいキャラより犬耳キャラ。これだ。
職権乱用と言われようが構うことはない。かわいいは正義なのだ!
ああ、どのキャラもいい子ばかりだった……猫耳も兎耳も狐耳もいいが、僕はやはり犬耳だな。犬はいい。
だがモノには限度があり、それを逸脱すると後ろ指差されることになる。
当然のように僕は『カラクリノヒメ』でもケモノ娘を登場させようとした。正確には犬耳娘だ。犬耳>ケモノ耳という優先順位だ。
しかし一般常識なるものを振りかざすスタッフがたまたまチームに揃っていたのが運のツキだった。
今思えばあれはおかしかった。だって僕以外全員がケモノ娘にノーを突きつけたんだから。社長あたりの差し金だったのではないだろうか。
僕は断固拒否した。犬耳娘のためだ。宗教戦争だ!
戦いは長期に渡った。
だが結局、僕が折れた。
この世界設定には不要だとか、なくても魅力的な世界だから大丈夫だとか、機巧姫のオプションパーツなら許可しますとか、むしろいい病院を紹介しましょうかとか散々言われて、泣く泣く『カラクリノヒメ』ではケモノ娘は登場しないことになった。
返す返すも口惜しい。
多数決とかいう根本的な欠陥がある意思決定方法は廃絶されるべきであると強く思った。
もちろん、僕だって冷静になれば正しい判断は下せる。
ケモノ耳キャラは見た目の効果とか諸々を考えるとおいしいネタなのだ。それは他のスタッフたちもわかっている。
だが方向性の異なる要素を入れすぎると全体バランスが悪くなるのも事実。
ゲームのコンセプトとしてバランスよく要素を配置することを掲げていた以上、ケモノ耳は諦めざるを得なかった。
そんな過去のことはいい。今は目の前の犬耳娘だ。
艶々とした美しい毛並み……じゃない髪。両耳はぴったりと後ろに寝ており、澪に対して敵意がないのがわかる。
だからだろう、ワシワシと頭を撫でられているけど逆らう様子はない。
犬は古来より人間の友だからな。当たり前だ。
彼女にはなんと尻尾も生えていた。
髪の色と同じで立派な尻尾だ。長くて、しかもフサフサだ。それがブンブンと左右に大きく振られている。ご機嫌だな。
ああ、撫でたい。すごく撫でたい。
いいなあ、澪。僕も撫でさせてもらえないかなあ。
マンション暮らしじゃなかったらペットを飼いたいと思っていたんだ。
妹は猫派だったけど、僕は断然犬派だった。
やっぱり飼うのなら犬だよなあ。忠実なる人間の友。古くから人間の隣にはずっと犬がいた。