第2話3

エピソード文字数 910文字

ミオ、いけません。

もっとたくさん弓を射るのです。

これではご褒美が……ご馳走が!

お、落ち着いて、水縹。

大丈夫、ご馳走は逃げたりなんかしないから

 もっとも自分たちにまでご馳走が振舞われる可能性は低いだろうなと澪は思っているのだが。

 一度食べたときの記憶をもとに食堂で美味しい食事をいつも出してくれる中伊(なかい)紀美野(きみの)に頼んで狸食の再現をしてもらおうか。

ふ、ふふふ……
どうしたのですか、ミオ
ううん、なんでもない

 戦場にありながらこんな調子でいいのだろうかと澪は首をかしげたくなる。

 まるで操心館(そうしんかん)でのいつもの一コマのようなやりとり。

 だがそのおかげで肩の力はすっかり抜けていた。


 本来、絶望的な状況なのだ。

 この陣に攻め寄せる敵機巧武者の数はこちらの何倍にもなる。さらに歩兵も二倍以上が動員されている。

 相手より多い兵を揃えて戦うのは基本中の基本。

 この基本を守れている以上、数で押しつぶせばよいという敵の戦術は何も間違っていない。


 もちろん、澪たちもただ手をこまねいていたわけではなかった。

 敵が国境を超える前から物見の兵を張り付かせ、少数の斬り込み隊によって敵補給部隊を繰り返し襲撃した。

 相手を挑発し、夜討をし、時間を稼ぎ、この日、このとき、この場所へ誘導したからこその状況である。


 戦力差はあるが策もなく戦っているわけではない。絶望もしていない。

 だから今はただ己の役目を果たすのみである。

わかっていたことではありますけれど、こうも数が多いというのは……簡単にはいかないものですね
だが、ここまでは互角以上に遣り合えている。

問題はないだろう

状況がこのまま推移してくれれば、ですけどね

 澪の言葉に二旗の機巧武者がうなずいた。

 いまだに薄氷を踏む状況であるには変わりがない。

俺たちは俺たちの役割を全力で果たすだけだ。

ここで敗れれば我が国は終わりだからな。

戦いの目標は明確で、主導権を握り、戦力を集中させ、指揮系統は明確になっている

数の優位が活かせない位置に陣を敷き、補給を遮り敵軍の士気は落ちていますしね。

ふふ。本当に驚きです。

わたくしたちも敵も、まるで(まじな)いでもかけられたかのよう

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色