第29話2

文字数 616文字

ただ、あの人の強さは俺も認めている。かなり鍛えているしな。

でなければ初陣で首級をあげるなんてできないだろう? 

もちろん、俺だって戦に出れば活躍できるさ。いや、する。そのために鍛錬しているんだからな!

 気合を入れるように、パシンと右拳を左の手のひらにあてる。
……まだ機巧姫はいないけどさ。

いれば俺だってきっと、絶対……たぶん

 声のトーンが徐々に落ちていく。

 正直な奴だなあと微笑ましく思う。

 何かに挑戦するとき、不安になるのはよくわかる。それは誰だって同じだ。

 僕だって新しいゲームをリリースするときは胃がキリキリと痛むし。

兄貴はそれ以上に強い。ずっとずっと強いんだ。とんでもない強さだった。

でなければさっきの模擬戦だってあんな一方的な流れになるはずがないんだ。

基本的に兄貴がしていたのはウメゾノ様の攻撃をさばくだけだったもんな

 さすがは三旗の機巧武者を倒しただけはあるよと口の中でつぶやく。
今のウメゾノ様が兄貴に勝つのは天地がひっくり返っても無理だ。

俺が鬼の長を殴り倒すのよりも難しいと思う

おにの人たちは一晩中ケンカして、最後にたってた人が長になるんだって。ケンカばっかりしてるの。

あたしたち人狼とはぜんぜん違うの

お、犬っ子のくせに俺たちのことをよく知ってるじゃないか!
あたし、犬じゃないもん! おおかみだもん!

 髪の毛を逆立てる勢いで翠寿が食って掛かっている。

 そうだよな、翠寿は犬耳じゃなくて狼耳だもんな。

 絶対に間違わないぞ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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