第61話3
文字数 582文字
耳障りな錆び付いた声に振り返る。
淡い桜色をした花をつけている木の間から鶯色の機巧武者が姿を現した。
三桜村の生き残りはすでに別の村に移り住んでいるけど、あそこが彼らの故郷であったことには変わりがない。
いずれ戻れる日が来るのかもしれないのだから荒らしていいわけがない。
さっきまでうるさかった自分の呼吸音が遠くなった。
あれこれ考えてしまってまとまらなかった思考が収束していく。
三桜村を襲ったのがこいつらの仲間だったのか。
巨大な槍に体を貫かれた人。足をもがれた人。首をはねられた人。苦悶の表情と絶命の声が蘇る。
踝のあたりまで埋まりつつあった足を抜き、腰を落とす。
重心は後ろ目でややバランスは悪い。
顔の高さに上げた刀を構える。刃は地面と水平に。切っ先は相手に向ける。
彼我の距離は三〇メートルほど。
この距離なら〈縮地〉は一瞬で詰める。
地面が蹴られ湿った土が舞い上がる。
槍を左前に構えた機巧武者の姿が掻き消えた。