第61話3

文字数 582文字

見つけたぞッ

 耳障りな錆び付いた声に振り返る。

 淡い桜色をした花をつけている木の間から鶯色の機巧武者が姿を現した。

広い場所ならば勝機が見つかるとでも思ったか
ここなら誰も暮らしていないからな。

さっきみたいな場所で暴れたら村人の迷惑になるだろう

 三桜村の生き残りはすでに別の村に移り住んでいるけど、あそこが彼らの故郷であったことには変わりがない。

 いずれ戻れる日が来るのかもしれないのだから荒らしていいわけがない。

くくくッ。あの村に住人など一人もおらんぞ。

事前に整理しておいたからな

……そうか。なるほどね

 さっきまでうるさかった自分の呼吸音が遠くなった。

 あれこれ考えてしまってまとまらなかった思考が収束していく。


 三桜村を襲ったのがこいつらの仲間だったのか。

 巨大な槍に体を貫かれた人。足をもがれた人。首をはねられた人。苦悶の表情と絶命の声が蘇る。

許さない……
なんのことだ
三桜村の人たちを無残に殺したことを許さないと言ったんだ!

 踝のあたりまで埋まりつつあった足を抜き、腰を落とす。

 重心は後ろ目でややバランスは悪い。

 顔の高さに上げた刀を構える。刃は地面と水平に。切っ先は相手に向ける。


 彼我の距離は三〇メートルほど。

 この距離なら〈縮地〉は一瞬で詰める。

面白い。

やってみせるがいいッ

 地面が蹴られ湿った土が舞い上がる。

 槍を左前に構えた機巧武者の姿が掻き消えた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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