第11話4
文字数 644文字
ジリと僕が近寄ろうとした瞬間だった。
それまで楽しそうに揺れていた尻尾が緊張するようにぴんと水平に突き出さる。
むむ、警戒されているのか。
僕はこんなにも犬が大好きだというのに。
全力でモフモフさせてもらえたら僕のこの想いが彼女に届くかもしれない。
一歩ずつ近づいていく。
腰を落として目線をなるべく同じ高さにするのがコツだ。
じっと僕を見つめる彼女の瞳。とても綺麗だ。
短めの眉がきゅっと中央に寄っているのもかわいらしい。
犬耳娘相手に猫なで声で話しかける。
敵意がないことを表明しているだけで深い意味はない。大切なのはハートだ。
届け、僕の想い!
彼女の耳はぴんと立っている。
ワキワキと両手の指を動かしながら、ゆっくりと距離を詰めていく。
心なしか彼女の目が潤んでいるようだった。潤んでいるっていうか泣いてる?
あと一歩で手が届くと思った瞬間だ。
衝撃が股間から脳天へ向けて突き抜ける。
パチンと何かが弾けた感覚があった。
変な声が出た。
あれ? どういうことだ?
地面が近づいてくる。
視界の端に犬耳娘の足が見えた。
あ、そうか。
その足で蹴ったわけね。
次の瞬間、僕の視界が真っ暗になった。