第11話4

文字数 644文字

 ジリと僕が近寄ろうとした瞬間だった。

 それまで楽しそうに揺れていた尻尾が緊張するようにぴんと水平に突き出さる。

 むむ、警戒されているのか。

 僕はこんなにも犬が大好きだというのに。

 全力でモフモフさせてもらえたら僕のこの想いが彼女に届くかもしれない。

ハァハァ……

 一歩ずつ近づいていく。

 腰を落として目線をなるべく同じ高さにするのがコツだ。

ハァハァ、ハァハァ……

 じっと僕を見つめる彼女の瞳。とても綺麗だ。

 短めの眉がきゅっと中央に寄っているのもかわいらしい。

あの、主様?
だいじょうぶだよ~。

モフモフするだけだからね~。

痛いことなんてしないからね~

 犬耳娘相手に猫なで声で話しかける。

 敵意がないことを表明しているだけで深い意味はない。大切なのはハートだ。

 届け、僕の想い!

キヨマサ君! 

キヨマサ君ってば!

だいじょうぶだいじょうぶ。

こう見えて動物の扱いはネットの動画でいろいろ勉強してたからさ~。

羨ましかったんだよなあ

 彼女の耳はぴんと立っている。

 ワキワキと両手の指を動かしながら、ゆっくりと距離を詰めていく。

 心なしか彼女の目が潤んでいるようだった。潤んでいるっていうか泣いてる?

 あと一歩で手が届くと思った瞬間だ。

はうわっ

 衝撃が股間から脳天へ向けて突き抜ける。

 パチンと何かが弾けた感覚があった。

きゅう~~~

 変な声が出た。

 あれ? どういうことだ?

 地面が近づいてくる。

 視界の端に犬耳娘の足が見えた。

 あ、そうか。

 その足で蹴ったわけね。

 次の瞬間、僕の視界が真っ暗になった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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