第38話1 夜道はどこまでも暗い

文字数 781文字

 夜道はどこまでも暗い。

 早速購入したばかりの提灯を葵に持ってもらって歩いていく。

 街灯のない町は暗い。

 たまに明かりが外に漏れているお店もあるけど、少し離れたら真っ暗だ。


 気が付いたら澪は大人しくなっていた。

 さすがにお姫様抱っこで移動するのは歩きにくかったので、今は背中に負ぶっている。

 すぅすぅと一定のリズムで呼吸が首筋にかかってくすぐったい。どうやら寝てしまったようだ。


 二人分の足音と澪の呼吸音だけが聞こえる静かな夜だった。


 操心館の周辺はしんと静まり返っている。

 昨日のお城帰りのときにも思ったけど、この辺りは住んでいる人の数が少ないせいか、とても寂しい。

 そもそもここは軍事施設なわけで、防衛上の観点からするとそれが当たり前なのかもしれないけど。

悪いんだけど葵は先に行って翠寿が寝ていたら起こしてもらえるかな。

あとは寝る準備をして休んでいいから。僕は澪を部屋に置いてくるよ

わかりました

 澪の部屋に直接向かってもいいんだけど、紅寿に怒られそうだから翠寿というワンクッションを置こうと思う。

 送り狼なんてしてないからね?

 ここまでちゃんと連れ帰って来ているわけで、文句なんて絶対に出しようがない状況なんだけど、何事にも誤解っていうものがあったりするわけで。

 石橋は叩いて渡る。これ、大事。

ふわぁぁぁ……わふぅ。

おかえりなしゃい、きよましゃさま……

 寝癖がついたままの翠寿が部屋の前で出迎えてくれた。

 耳がぺたっとしていて、これはこれでとてもかわいい。

寝ていたところ悪かったね。

澪が酔っぱらって潰れちゃったから、隣の部屋の紅寿を起こしてもらっていい?

んにぃ、コウおねーちゃんをおこひてきましゅ……

 全然呂律が回ってない。悪かったなあ。

 この世界では日が暮れて暗くなったらすぐに寝てしまう。そのかわり朝が早いんだけど。仕事だって基本的には昼過ぎで終わりだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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