第45話3

文字数 966文字

 江戸時代にファーストフードとして定着したという握り寿司はこの世界でも一般的な食べ物だった。

 座敷のある高級店も存在するけど、庶民は立ち食いで済ませることが多いそうだ。

うん、美味いな

 ただし、一つが大きすぎて一口ではとても食べきれない。

 おにぎりのようにノリが巻いてあるわけではないので、食べている途中でどうしても崩れてしまう。

キヨマサ君。

もう少し綺麗に食べられないの

これを綺麗に食べるのは難しいよ
葵の君のお皿を見なさいよ。

米粒一つ残ってないわよ

 そうはおっしゃいますが葵の食べ方はとても真似なんてできませんよ。

 だって一口でぱくって食べてるんだもん。

 普段の上品顔からは想像もつかない豪快な食べっぷりだ。

ふー、食った食った。

朝から食べ過ぎだよ

 腹ごなしに少し歩いてから操心館へ戻ることにする。

 昨夜の雨は上がっていたけど、地面はかなりぬかるんでいた。

本当にごちそうになってもよかったの?
いいから気にしないでよ
いいから気にしないでよ
 だって握り一つ二百圓程度だし。コンビニでおにぎりを買うのと大差ない。
今日はさ、澪に乗馬を教えてもらいたいと思ってるんだけど
構わないわよ。

あ、わかった。さっきのお寿司はその報酬の前払いだったりして……あれ? 誰か来てるみたい

 操心館の門の前に馬に乗った人がいた。

 遠めに見ても立派な馬だとわかる。どこかのお偉いさんが視察にでも来たのだろうか。

あれは不動かな
 訪問者に対応していた人がこちらに気づいたのか走ってやってくる。
兄貴ー! 

ちょうどいいところに!

 やっぱり不動だった。そんなに慌ててどうしたんだろう。
あああ兄貴!
とりあえず落ち着こう。深呼吸な。

吸って、吐いて、吸って、吐く

すぅぅ、はぁぁ、すぅぅぅ、はぁぁぁぁ……
落ち着いた?
ああ、大丈夫。

あのさ、シライト様がいらっしゃってて、兄貴に会わせて欲しいって言ってるんだよ

白糸様が?

 お城で会った紅顔の美少年を思い出す。

 また戦いの話を聞きたいって言っていたし、その件だろうか。

じゃあ、行こうか
 みんなで緒に白糸様の待つ門へ向かおうとする。
あ、いや。姉貴たちはちょっと……
そうね。

私はここで待ってるから

澪?
キヨマサ君はフドウと行ってきて
 その目は「ここは譲れないから」と語っている。
でしたら、吾もここでお待ちしております
……悪いね。

ちょっと行ってくるよ

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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