第43話1 ごめんね

文字数 754文字

ごめんね。

これから館長とお話をしないといけなくて

 紀美野さんを待っていたけどなかなか戻ってこないので操心館へ戻ってきた。

 よいお酒を確保できたら使いを出すと中伊さんが約束してくれたので頼りにさせてもらおう。

いいよいいよ。仕事があるのならそっちを優先して。

僕も適当にやってるから

うん。じゃあ、またね。

コウジュ、行くよ

 小走りで去る二人を見送る。

キヨマサさま、あたしもおしごとしてきますね

 翠寿の仕事は僕の身の回りのことをするだけではない。

 操心館を運営していく上でいくつかの仕事を彼女たちのような小者が任されているのだ。

ああ。しっかりね
はい!
 翠寿も見送っていると入れ替わりに不動がやってきた。
お、兄貴か。

こんなところでなにやってるんだ?

 今日も鍛錬をしていたらしく、体から湯気が立ち上っている。
特に用事はなくてね。

どうしようかなって考えてたところ

それならちょうどいいや。俺と銭湯に行かないか? 

ここのお風呂、まだ沸いてなくてさ

お、いいね。

葵はどうする

吾は部屋に戻っていようと思います
 小さく頭を下げる葵を不動がなんとも複雑な表情で見つめている。
わかった。

じゃあ、二人で行ってくるよ

ちょっと待っててくれ。用意してくる

 一旦部屋へ戻った不動を待って銭湯へ向かうことにする。

 操心館の門を出たところで、不動は頭に七福神の大黒様のような頭巾を被った。

行こうぜ、兄貴

 仕事で遅くなる日は同僚と会社の近所にあった銭湯によく行ったものだ。

 体を真っ赤にしながら熱い湯船に入って、仕事の愚痴を言い合い、湯上りにコーヒー牛乳をぐぃっとやるのが最高だった。

不動は銭湯によく行くの?

 返事がない。

 どうしたのかと思って見ると深刻そうな顔をしている。

不動?
あ、いや、なんでもない
 とはいうものの表情は暗い。悩み事でもあるんだろうか。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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