第6話4

文字数 910文字

機巧姫、ねえ。

何の因果なんだか……まったく…………はは

 その言葉を知っているなんてものじゃない。誰よりもよく理解している。

 だって僕が作ったゲームの用語なんだから。


『カラクリノヒメ』は僕――不吹清正が企画、ディレクションをしたタイトルだ。

 その中に機巧姫や機巧武者という用語が出てくる。


 つまりだ。

 今、僕に膝枕をしてくれている彼女は、僕が作ったゲームの設定通りであれば人間ではないということになる。

 人間ではないとはとても信じられない。

 だって頭の下に感じる柔らかさは人形のそれではないんだから。

 それにさっきから僕の髪を手櫛で整えている指先だってぬくもりがある。


 思い返してみれば、さっきの戦いだって荒唐無稽と言えばその通りだ。

 現実世界で巨大ロボットが稼働しているなんていうニュースは流れていないのだから。


 五メートル近い巨大な鎧姿になって戦う。

 たしかにゲームにそういうシステムはある。

 ゲージがたまったところで必殺技的に機巧武者という巨大なユニットが登場して大ダメージを与えるという演出だ。

 それをまさか自分がああいう形で体験をするとは思ってもみなかった。

 だからきっと、これは夢だ。


 ただ戦いの爽快感については素晴らしいの一言だった。

 どんなVRゲームでもあれには及ばない。

 文句なし。あの無双感、爽快感は最高の体験だった。


 数的不利があったにもかかわらずの完勝。

 しかも相手は対人戦闘で有利な槍を持っていて、こちらは素手だったのだ。

 普通なら数の多い方が勝つ。ランチェスターの法則によるまでもない。袋叩きにあってボコボコにされるのがオチだ。


 だが結果は違った。

 僕が勝った。

 それも圧勝だ。こっちは傷一つ負っていない。


 戦闘だ。命を懸けた戦いだ。

 現代日本においてまずありえないであろうシチュエーションだった。

 下手したら命を失いかねなかったというのに、まったくそんな心配はなかった。ピンチのピの字すら感じなかった。

 思うままに体を動かしただけで武術の達人のように敵をわずかな時間で倒した。結果を見ればそれだけだ。

 僕自身は武道の心得なんてものは持ち合わせていないので、彼女が優れた機巧姫だったのだと思う。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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