第15話3

文字数 896文字

この先どうなるかわからないけど、またここのお風呂を使うことがあったら一緒に入る?
はいる!

 おう、即答ですか。

 いいですね。当方に拒否する理由はございませんことよ。

 彼女は湯浴衣を着ていたけど、湯船に浸かっているのでぴったりと肌に張り付いていた。

 今なら薄い桜色をした二つのぽっちが見える気がする。


 いや、待て待て。これは駄目だ。ここから先は十八歳未満は禁止だ。

 でも待てよ。僕の実年齢は二十六歳だから問題ないのではなかろうか。

 ……いかん、落ち着け、不吹清正。クールになるのだ。

 ケモノ娘と一緒にお風呂に入るという夢が叶ったからといって暴走するわけにはいかない。

あ、そうだった。

お兄ちゃん、お風呂からでて

……どうしても出なくちゃいけないかな
うん。だってお背中流せないでしょ

 これはつまり、翠寿ちゃんが僕の背中を流してくれるってこと?

 え? え?

 そんなこと許されるんですか?

あー、でもちょっと待ってもらっていいかな
……?

 どうして?と言いたそうに首をかしげている。

 ああ、本当にかわいいなあ。

 パタパタと濡れた耳が水を飛ばす仕草とか最高じゃないか。

 それにほんのり頬が赤くなっているのもいい。

 翠寿の顔から視線を離さないようにして心を落ち着ける。

 大丈夫、僕は冷静だ。

 きっと気が付かれてはいない……よし。

 ざばりと音を立てながら湯船から上がる。

はい、出たよ。

今度はどうすればいいの

そこのいすにすわってください
 壁に向かって腰かけると、後ろから水音がした。それからペタペタという足音。背後に気配を感じる。
じゃあ、お背中お流しします
……お願いします

 小さな手で手ぬぐいを持って背中を洗ってくれる。

 ああ、なごむ……最高だ。生きててよかったあ。

 この子、お持ち帰りできないかなあ。

お兄ちゃんはつよいんだよね
うーん、どうだろう
だってわるい機巧武者をたおしたんでしょ?

 葵と二人で三体の機巧武者を倒したけど、あれは僕単独でできることではないしなあ。

 むしろ紅寿に股間を蹴られて悶絶した例をあげれば僕は弱い。

 いや、あれは犬が好きだという弱点を突かれたからであって、次はきっと……同じ展開になりそうだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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